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(4)

「まったくお前も運がわるいな、私の機嫌が悪くなればすぐ呼び出されるのだからな」

「皆、王子を心配しているのです。困らせてはいけません」

 王子がすねた事情をサガ宰相から聞いて知っているのだろう。

 穏やかに答えるバーサを見てアルド王子は大きな溜息をつくと、

「バーサ。一緒にいるのはサガだ。頼むから『いつもの話し方』にもどしてくれ」

 そういわれてバーサがサガ宰相の顔をみると、「やむをえん」とばかりにうなずいていた。

 

「やれやれ、今度は私を困らせるのですか」

「困る必要はない。いつも通りしろ、と言っているのだ」

  バーサは仕方ないな、と言わんばかりに頭を振ると、

「だいたいどうしてお妃の話になるとご機嫌ななめになるのです。まったく」

  と、突然バーサの声のトーンと表情が変わった。

「まだその気にならんのに煩いからだ」

 ぷいと横を向いてしまったアルド王子にかまわずバーサは語りかけた。

「まさか『愛のない結婚』なんて、とか思ってないでしょうね。あのですねえ、どんなかたちにせよ、

どんな出会いにせよ、『愛』は育つことがあるのです。私の国ではですね、王子のような方を『シンデレラ

の王子様症候群』というのです」

「『シンデレラ・・・・・・』なんだそれは」

 アルド王子が興味をもったようなのでバーサは説明をすることにした。



「ある国の王子が村の娘、シンデレラに恋をした。そして無理やり周りを説き伏せて結婚してしまうのです」

 アルド王子は首をかしげ、続きを促した。

「それで」

「愛し合う二人は結婚してめでたし、めでたし、だと思いますか」

 不思議そうな顔をする王子を前にバーサはなおも続けた。

「結婚してからが大変なのです。王妃はもともと自由な暮らしをしていた普通の村の娘です。

お城のしきたりも何もしらない。だからそれを心配した王子の母、皇后様が彼女を厳しく教育

しようとしたのです」

「ほう」アルド王子は話に興味をもったのか身を乗り出してきた。

 脇にひかえるサガ宰相も続きを待っているような顔をしている。

「ですが、彼女にして見ればそれはつらい日々だったのでしょう。自由だった頃の暮らしが忘れら

れず、ついに数人のお供をしたがえて王子をおいて旅にでてしまうのです」

 バーサはアルド王子が『シンデレラ』の物語を知らないのをいいことに途中から『エリザベート后妃』

の伝記に話を転換した。

「王子はその娘を愛していましたが、彼女はどうしてもしきたりだらけのお城の生活になじめなかった。

最後には旅先で刺客にねらわれ殺されてしまうのです」

 そこまで聞いてアルド王子は顔をしかめた。

「アルド王子」

 バーサが口調をゆるめ語りかける。

「お気持ちはわかります。でも、他国の姫君や貴族の娘達がすべて王子の地位や名誉それだけのために

王子と結婚を考えているわけではないと思います。いま王子に想い人がいないのなら、むしろそういったかた

がいないうちに姫君たちに一度お会いになってはいかがですか」

 

 王子はじっとバーサを見つめた。

「どうかな」

 それだけいうと背を向けてしまった。

「バーサ」

「はい」

「今日はもう遅い。部屋を用意させるから泊まっていけ。明日朝食を一緒にとろう」

 するとバーサは

「ああ、大丈夫ですよ。今日はパリカールも一緒ですし帰ります」

 にこやかに笑いながら返答した。

「パリカール?」

「あのときのロバです。かわいい名前でしょ。やっぱりロバにはパリカールでしょう。はははっ。

いまでは怪我も治っていろいろと役に立ってくれています。では」

 バーサがさがろうとすると、

「だめだ。ロバはお前を守ってはくれないだろう。一人では危ない。私が……」

「王子!」

 バーサについていこうとするアルド王子をサガ宰相がとめる。

「バーサ。王子の言う通りだ。お前が王子と親しくしていると知ったものがお前を狙わないともかぎらない。

今日はここへ泊まりなさい。こんな時間にお前を呼んだのは私なのだ。言う事をききなさい。

これから夜呼ばれたときはそのつもりで来るように」

「これからって、あの……じゃあ、番犬を飼ってもだめですか?」

 おずおずと聞いてきたバーサに、

「だめだ」王子とサガ宰相二人から叱責の声がとんだ。



「あーあ。今度はバロンってつけようと思ったのに」

 自分にしか理解できないことをつぶやいてバーサは王子の部屋をでた。



城の廊下をサガ宰相と歩きながらバーサは、

「王子を説得するつもりが、至らずに申し訳ありません」そういって謝ると

「いや、あそこまで話をすすめることすらほかの者には不可能でな。王子も随分心をうごかされたようだ。

でかしたぞ。バーサ」

 このように話すうちにサガ宰相はバーサを信頼するようになっていた。そして心の奥では

「王子がこんなにも心をゆるすバーサが女であったなら」と思っていた。


 

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2005/3/5 update

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