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(38)
「お前が医師なの」
女性のなりをしたバーサに驚いたように言う。
しかしもともと細身で華奢なバーサがこの姿になっても全く違和感はない。
「ラズル様、どうかミヤ様をごらんください。このままではあなたを心配するあまり彼女の方が病気
になってしまいます」
その言葉にラズルは顔を上げてミヤをみつめ、その目の下が以前よりも深くくぼんだことに気がついた
ようである。
ミヤはただうなずいてラズルの手を握り返している。
やがてラズルはうつむき、うなずいた。
「ありがとうございます。失礼します。頭に痛みは」
バーサは落ち着いた声で話しかけながら頭部の触診を始めた。
傷は顔面左部に集中していた。
左目まぶたは青く腫れ上がり、腫れのためにうまく閉じられない目からは絶えず涙が流れて頬も青く変色
している。
口唇は裂傷のため出血がみとめられ、それが乾いてこびりついている。
「口をあけて。そう、こっちむいて……口の中、粘膜も切れている。これじゃ、水を飲んでも痛かったでしょう」
襲われてすぐに気を失ったと聞いていた。
おそらく出会い頭に手で顔を殴られ、そのこめかみへの強い衝撃で脳しんとうを起こしたに違いない。
ところどころドレスもやぶれたままである。
先ほど兵士に話を聞いた限りでは、彼女はその場ですぐに救出されたはずではなかったか。
バーサの視線は自分でも気づかぬうちに厳しいものになった。ラズルはルリナ姫よりも幼く、体も細い。
まだ子供といっても差し支えないだろう。
「使えないな。こうなる前に助け出せ、バカどもが」
間抜けな兵士達の顔を思いだし、思わず小声で叱責せずにはいられなかった。
「……幸い、骨には異常ないようですね。もう少し様子を見ないといけませんが痛みもしびれもないとのことです
から頭も大丈夫でしょう。ただ」
「なんでございましょう、バーサ殿」
不安げにみていたミラが問いかける。
「まぶたがすごく腫れ上がっているでしょう? 血がたまっているのです。少し切開して血を抜いたほうがいい
ですね。あと口の中が切れていますからそこは縫いましょう」
「き、切る、ぬ、縫うのでございますか」
そう言って声をなくしたミラにバーサは優しくつけたした。
「傷は殆ど残りません。それとお体に怪我はございませんでした。ご安心ください。きれいに治りますよ」