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(10)
「へえ、先生が着なさるのかね」
ルリばあさんはおかしな話しだねぇ、と言いたそうに笑いながら聞いてくる。
「『私』のままでは目を引きますから、その、ばあさんのできるだけ目立たない服をお願いします。今日中に
返しにうかがいますから」
ところがルリばあさんが持ってきたのはとてもキレイな若草色の祭り用の衣装でルリナ姫のそれよりも
目立つ。
「先生は色が白いから似合うと思いますよ。なに、サイズは私のですからね、男の人でも大丈夫。
結構大きいから安心して
くださいな」
ばあさんはそういうと大きな体をゆすって笑った。
「でもこれでは」
あ、いや、むしろルリナ姫より『女性として』目立ったほうがいろいろと庇えるかもしれない。そう思い直してバーサ
は衣装を受け取った。
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「気に入らないわ。バーサ。私もそっちの衣装のほうがいいわ」
案の定ルリナ姫がむくれていた。
こちらの世界では小柄なバーサは、ばあさんのゆったりした衣装をまとうとより、ちんまりとかわいく見えてしまう。
なによりも若草色はことのほかバーサに似合ってしまい、想像以上に目立ってしまっていた。
「ルリナ様、早く参りましょう」
バーサがあたりを気にしながら何度うながしても拗ねているルリナ姫はなかなか首を縦に振らない。
「まだいいでしょう。お祭りなんてめったにないんですもの」
「アルド王子が姫をお探しかもしれません」
そういうとルリナ姫は唇を尖らせて、ようやくうなずいた。
メインストリートをぬけると城の裏手につづく道がある。
バーサは姫とダリをつれて足早にその道へ入った。
少し行くと前方に衛兵と思われる、剣を腰にした男性が3人たっているのが見え、「剣に王子の紋章がついてる。
王子直轄の兵士ですね」そうつぶやいてバーサは安堵のため息をつくと足を速めた。
ところが。
バーサたちを見た彼等はこんなことを言ってきたのだ。
「どうかなあ、せっかくのお祭りだ。俺たちも三人、お前達も三人、これから一緒に酒を飲むってのは」
そして、それぞれが下卑た笑いを見せ、すでに酒の臭いをさせている。
バーサの後ろで「なんと無礼な」。と、震えながらも気丈なルリナ姫の呟きが聞こえる。
「……私は急いでいるのですが、仕方ありません。あなた達はこちらにいてください」
そうルリナ姫たちに言い置くとバーサは兵士の方に向き直り、
「兵士の皆様、私が一人でお相手いたします。どうぞこちらへ」とにっこり微笑みながら言い放った。
その笑顔を見た彼等は何を勘違いしたのか奇声を上げて、
「おいおい、こんなお嬢ちゃんが一人で俺たちの相手をするってよ、お嬢さんたち一人ずつでも大変だとおもうぜぇ」
とげらげらと笑い、バーサに促されるまま大きな木の裏へ回っていった。
バーサを含めた四人の姿が木陰に消えてすぐである。
うめき声とともにルリナ姫のいるところまで『ごきり』『ごきり』と音が聞こえた。
「バーサ、バーサ! 何があったの」
半分泣きそうになりながらルリナ姫が問いかけると木陰から大きな体がごろりと転がりでてきた。
「なんでもありませんよ。さあ、お前達。おとなしく立って歩きなさい」
バーサは本当になんでもない、という感じに答える。
ところが転がった男達は全く立てず、三人とも両腕をだらりとさせて悲鳴を上げていた。
「お、お前なにしやがったんだ、俺たちの手、腕が……」
バーサは彼等の腰から剣を取ると一つの剣を鞘からぬいて地面に突き立てた。
「だいじょうぶ。肩の関節をはずしただけです」
それから残りの二つの剣をルリナ姫とダリにそれぞれに渡す。
「この馬鹿どもを城まで引き立てていきましょう。すこしでもはむかってきたら剣を振り回してください。
うっかり突き殺してしまうことなど、よくあることです」
バーサのこの言葉をきいて兵士達は震え上がり、同時にルリナ姫もバーサの冷静さの中に恐ろしいまでの
『怒り』を感じて、おとなしく従った。
城の裏門につくと、城中ではルリナ姫を探してパニックになっており、姫とともにやって来たバーサはすぐ
に城内に通された。
「いてぇ、いてえよ」
もちろん、腕をだらりと下げた兵士達も一緒に。
「バーサ、姫が襲われたというのは本当か」
バーサたちの様子を聞いて大急ぎでやってきた宰相であった。
が、そこには祭りの衣装をまとった娘が三人。その足元には大泣きをしている兵士達。
サガ宰相は怪訝な表情をみせた。
「で、襲ったのはどっちなのだ」