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 月曜日、大学の入り口についた途端、俺は吉岡につかまった。

 

「おい、相原〜。 お前携帯の電源いれとけよ。 パーティのあとどうしたんだよ。 聞かせろよ〜。

 昨日メールだけじゃなくて、何度も電話したんだぞ」

 それは分かっていた。

 吉岡だけじゃなく、黒田、野上からもメールがあった。

 考えてみれば、俺は彰と2人パーティの途中で抜け出していたのだからこいつらが騒ぐのも当然だろう。

「ああ、服もヒールもきつくてしんどくってさ。 2人になってすぐ彰に事情話して奴の家で着替えさせても

らったんだ。 でさ、意気投合してそのまま一緒に飲んじゃった」

「彰ってあの時ひっかけた男か。 なんだお前もうばらしちゃったのか」

 すこしがっかりした声で吉岡が言う。

「あのなぁ。 2人きりになったら隠し続けるほうが無理があるだろうが」

 俺は応酬した。

 まさか最初から計画的だったとはいえない。

「そりゃー。そうだろうけどさ」

 どうやら無難な展開にちょっとがっかりした様だ。

「何かいい雰囲気だったからさ。 ひょっとしたら『女』のまま恋愛しちゃうのかと思ったよ。 俺は」

 おい、おい。

「だってさあ、あの時のあいつ、お前にべったりだったし。 途中からベランダに出ていったと思ったら、

かいがいしく飲み物運んだり、食べ物運んだり。 すこし動くだけでやたら目立つ男だったからさ」

 うっ。

「でさぁ。いきなり二人そろっていなくなるし」

「しかし、よく見てるよなお前も」

「当たり前だ。罰ゲームはしっかり見張らないとな」

 威張って言う吉岡に、俺はあきれてしまった。

「カッコイイって女たちなんか多さわぎだよ。 あれがお前だってバレたら嫉妬で殺されるぞ」

 それはよく分かっております。はい。

「俺さぁ。 女装したお前と一緒に来たところ見られたらしくて。許しちゃっていいの、吉岡君! とか

言われて攻められちゃってさぁ」

 だからなんでその状況でデレデレしてんだよ。お前は。

「そ、それで何て言ったんだよ」

 俺が聞くと、

「相原のいとこだって言っておいた。パーティの受付でもそういうことにしたろ」

 ……そうだった。

「そういう訳でこれから女どもに質問攻めにあうのは相原。君だ。がんばれよ」

 何だってー

「おい、待てよ。何かフォローしてくれよ。おい」

 追いすがる俺に、

「はっ、はっ、は〜。 ま、黒田と野上には俺から報告しておいてやる。感謝しろよ」

 そういって吉岡は去っていった。

 

 そのすぐ後、俺は「簿記論」の講義を受けながら、ひたすらノートをとっていた。

 俺は勉強中だ。真面目なんだ。誰も話しかけるな、というオーラを振りまいているつもり。

 

「あ、相原君だ。ねぇ、ねぇ、ちょといい」

 そんな俺のオーラをまったく無視して、近くに座っていた女の子が声をかけてきた。

 きたぞ。きたぞ。

 いつもの俺なら喜んで振り向くところだが今日は別だ。

「ごめん。俺この講義の単位おとすとやばいんだ」

 そう言って、一応これ以上話かけるなオーラをだしたつもりなんだけど。

「そう? じゃぁこのあとランチしようよ。 でないとノートとらせないぞ」

 彼女はにこっと笑った。

……俺のオーラ、全然効き目なし。

 

 授業が終わってその娘と大学内にあるレストランへ行くと、いつの間に連絡をとりあったのか他にも

ぞろぞろと5人もの女の子が俺を待ち受けていた。

 その中にはパーティのとき俺をシメようとした女の子もいて気分は最悪。

 

 俺さぁ。本当はボリュームたっぷりの日替わりランチセットが食べたかった。

 けど、こうも囲まれちゃあ食べにくい。

 仕方ないので手軽ですぐに食べ終わるチーズとハムのサンドセットにした。

 

「で、話ってなに」

 分かってはいるけど聞いてみた。

「この間のパーティで相原君の代理で来ていた女の子なんだけど……」

「うん」

 俺はサンドセットを食べながら相槌した。

「沼田君の彼女ってことはないわよね」

 それを聞いた瞬間、思わずむせてしまった。

 女の子たちは上目使いに俺をうかがっている。

「そ、それはないよ。あの娘はいとこで俺の代理で参加してもらっただけ。おまけにもう実家のある静岡へ

帰ったよ」

……うそだけど。

 すると目の前に座っていた女の子の顔がみるみる明るくなった。

「じゃぁ、沼田君とはあのときだけなの」

「ああ、あいつ彼女が俺の親戚だから気を使って相手してくれていたんじゃないかな」

 平静を装って俺が言うと、

「え、それって相原君が沼田君と親しいってこと」

 女の子たちがざわめいた。

「は、親しいって、その、飯食ったことがある程度だけど」

 そういうと彼女たちは更にざわついた。

「うそっ。うそっ。沼田君でも大学の誰かと食事にいったりするんだ」

「え、なんで?」

 彼女たちに聞くと、

「彼、どんなに誘ってものってこないんだもん。ねー」

 といって全員そろって膨れて見せる。

 しまった。 俺は全くうかつだった。

 それからは電話番号教えろだの、合コン企画しろだの言いたい放題。

 

 なんとか振り切って逃げた後、俺はあわてて彰に電話した。

 そしてやっぱりワンコールで繋がった。

「ケイ?」

「ああ、俺。おーい。俺さあ、女の子にうっかりお前と飯食ったことがあるって言ったら大変な騒ぎになったぞ」

「なんで」

「いや。あの。誰の誘いも受けないってきいたけど」

「そうだったかな。ところで講義は全部終わったの」

「まだ2つ残ってる」

「じゃ、終わったら飲みに行こ。 詳しく聞きたいし」

「あ、ああ」

 ありゃ、なんか俺また彰と約束しちゃったぞ。

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2005/1/13 update

2005/5/4 誤字、表記修正

2005/6/26 壁紙変更 

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