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 泊まるならってことで、ちゃっかりシャワーもお借りする。浴室も広々していて気持ちいい。

 

 来客用のベッドも布団もないし、ソファーは硬いからというので彰の使っているキングサイズのベッドの

端っこにおじゃますることにした。

「俺たぶん、いびき、はぎしり、寝相ともども問題ないと思う〜。安心しろよ〜」

 俺はどこまでもご機嫌だ。

「はい。はい。お休み」

 彰のその声を聞いて、俺はすぐに熟睡してしまったようだ。

 

 鳥の声が聞こえる……

 意識の奥でもう朝かな、と思いつつ、俺は夢をみていた。

 よく見る夢なのですぐにそれが『夢』だとわかった。

 過去の事実をなぞる夢。 とても嫌な夢なのによくみてしまう。

 夢の中の俺はまだ小さくて3歳とか4歳くらいだと思う。

 母さんを挟むように兄貴と俺が一緒に寝ている。 母さんは俺に背をむけて、いつも兄貴だけを抱きしめて

眠る。

 俺も母さんに抱っこしてほしくて、母さんのパジャマをひっぱる。

 でも、母さんは俺のほうに向いてくれない。 いままで一度も抱っこしてくれない。

「お母さん。ボクのほう向いてよ」

……いつもこうだ。

 どうして母さんは兄貴ばっかり抱っこしているんだろう。

「お母さん……」

 俺はべそをかいて母さんの背中に額をこすりつける。

「こっちむいてよ。 こっちむいてよ。 お母さん」

 

 するといままでに無かった不思議なことが起こった。母さんが向きを変えて俺の方に向いた。

 そしてやさしく抱きしめてくれた。

「お母さん」

「お母さん……」

 お母さんが抱っこしてくれるのは初めてだ。 お母さん。

 幼い俺はお母さんの胸に額をくっつけてめいっぱいあまえた。

「お母さん……」

 母さんがやさしく俺の背中をさすっている……

 

 眠い目を上に向けると母さんが……

 あれ。

 あんた誰。

「わーーーーーーーっ」

 なんと。

 俺は。

 隣に寝ていた彰にしがみついていたのだった。

 俺を抱きしめて背中をなでてくれいていたの母さんじゃなくて、彰だった。

「おま、おま……お前、なにしてんだよ。 寝ぼけてるんだから、俺のこと起こせよ」

 あわてて叫ぶ俺を前に彰はのほほーんとしていて

「うーん。『お母さん』って言われながら抱きつかれたのは初めてかなぁ」

 ときたもんだ。

「わーーーーーーっ。許してくれ。 誰にもいうなよ。 頼むから」

「本当、ケイって面白いよね」

 彰はそういってくっくっと笑っている。

 おい。……この間から思っていたけど彰ってどうしてこう動じないんだろう。

 

 その後はすぐに起きて、それでもちゃっかり朝飯をご馳走になってから家に帰った。

「ゆっくりしていっていいのに」

 という彰をふりきって。

 

 だって、だって、あいつは平気かもしれないけど俺は恥ずかしくてしょうがない。

「えーっと、家にもどったらまず借りたドレスをクリーニングにだして、それから親父のところいって

掃除でも手伝うかな」

 わざと自分で自分を忙しくして今朝のことは忘れることにした。

 

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