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「門のところで待ってる」

「はぁ」

 講義が終わって彰に電話するとあいつはもう迎えに来ているという。

 大学の門ね。 門……って

 

 またえらく目立つところじゃないかよ。

 

 慌ててすっ飛んでいくと、

「こっち。こっち」

 なんて悠長に手をふっている。 まったくもう、お前は自分が目立ってるのが分からないのか。

「おいこら! お前目立ちすぎなんだよ。またうるさい女の子に見つかったらどうするんだっ」

 彰の車に乗り込みながら文句をいうと、

「いつもこのくらい見られてるから、あんまり感覚ないんだよね」

 なんていやみなことをさらっと言う。

 いいかげんにしてくれよ。

 車から外をみると、レストランで一緒だった女の子がいてちらっと目があった。

 はぁ。

 あーあ。 もう俺あきらめた。

 

 

「あのさ。 飲みに行くんだろ。 車で大丈夫なのか」

 俺が心配して聞くと、

「一度マンションによって車を止めてから自宅近くの店へ案内するよ」

「おわ。そっか。あそこ住んでると近くに店が一杯あってよさそうだよな」

 

 彰に案内されて店につくと中はこじんまりとしたバーみたいなところだった。

 ただし、こじんまりとはしてるけどやたらと高級感がただよっていて、まるで高級ホテルのラウンジみたいだ。

 こういうところへ飲みにくるってことはやっぱり『お坊ちゃま』だよなぁ。

 そういえば黒田も『知り合いの店』によく飲みに連れて行ってくれるけどあそこもすごかったよな。

 

 まだ夜の7時ちょっと前。 

 飲むには早いせいか俺たち以外に客はいない。

「きれいなところだなぁ」

「5年位前まではレストランだったんだよ。 同じスタッフのままなぜかバーに転向」

「へぇ。」

 

「あら、めずらしいわね」

 奥から女性がきて彰に声をかけてきた。

 うわ。結構年いってそうだけどすっげぇ美人。

「ひさしぶり」

 彰がいうと、俺に振り返って彼女を紹介した。

「彼女は香さん。この店のオーナーなんだ」

「こ、こんばんは。相原です」

 俺があわてていうと。

「こんばんは。本当にめずらしいわ。先日あなたのお兄さんもここにきたのよ。やっぱりお友達をつれてね」

 彼女が彰を見て微笑む。

「それって友達」

「聞きたい?」

「聞きたい」

「そうね。ゆっくりしていってくれるなら教えてあげてもいいかしら」

 うわー。会話の運び方が大人の女って感じだ。 おまけになんだか意味ありげだ。 

 

 もとレストランというだけあって酒だけじゃなくて料理もうまい。

 ときどき香さんもやってきて彰や俺と話をしていく。

 さりげない配慮とやさしい雰囲気がとても心地よくてついつい薦められるままに酒を飲んでしまう。

「で、真吾だけど。どんな感じだった」

 真吾ってお兄さんのことかな。 気になっていたのか彰がさっきの話をむしかえす。

 香さんはちょっと首をかしげて、

「それがね。いつもと違うのよ。なんていうか。 お友達のほうが早く帰りたがってる感じだったの。

それを一生懸命真吾さんがひきとめて」

 すると彰は目を見開いて驚いた顔をした。

「ひきとめる? それ、逆じゃないんだよね」

「そうなのよ。いままでになかったことだから面白かったわ」

「めずらしいな」

 彰がつぶやくと

「あら、あなただってお友達つれてくるなんて、初めてじゃない。最近のあちこちでおこる天変地異は全部あなた

たち兄弟のせいよ。きっと」

 彼女は俺をみてにっこり笑った。

 

 

 しまった。 月曜日だから早く帰ろうと思っていたのに俺ときたらついついゆっくり飲みすぎてしまった。

 今から新宿へ行っても終電の時間に間に合わないじゃんかよ。

 それに気がついた彰は

「いいよ。僕のところ泊まっていけば」

 そういってくれるけど。 そりゃいいんだけど。

 

 おい。 お前はなんとも思ってないのか。

 ついこの間、俺、お前に抱きついてたんだぞ。


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2005/1/15 update

2005/5/4 誤字、表記修正

2005/6/26 壁紙変更 

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