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 彰の家は本当にホテルから20分くらいでついた。

  お約束どおりの超高層ビルかと思いきや、そう高層ではない、どっしりした5階建てのマンションだ。

に、してもどえらくでかい。

  立派なエントランスへ入るとまるでホテルのロビーのような応接セットがあり、そこを通り抜けてガラス張りの

ドアへと向かう。

  カードキーを差し込んで暗証番号を打ち込むとそのドアが開く。

「すごく厳重だな」

「それがウリのマンションだったからね。管理人も24時間体制」

「へー。すごいな。 ……あ、ちょっとまった。今9時少し前か。 お前の家族まだ起きてるよな。

いきなりこの格好ではいって着替えたらびっくりするだろ」

  俺はいまさらそんなことを思いついてそう言った。

「平気。平気。僕は一人暮らしだから。 両親は上野毛の自宅に住んでるよ」

「ふーん」

  はい、はい、お坊ちゃまのお約束よね。 息子はマンション、両親は高級住宅街の一戸建て(たぶん)。

  俺は親と同居。 夜11時42分新宿発の最終電車をのがすと帰れなくなる。 

  はーい。八王子市市民ですよ〜。

  ドアをあけてもらって中へ入ると、そこはやたらと小ぎれいだった。

  1人暮らしに3LDK。

  窓際には観葉植物まで置いてある。 男がここまでできるもんか。

……やっぱ彼女とかきて掃除とかしてくれているのかな……

  って、俺は何を考えてるんだ。

「おじゃまします」

  ぽそっと言うと、

「どうぞ」

  そういいながら先に部屋へ入った彰は上着を脱いで着替え始めた。

「うわーーーー。やっと着替えられるぜ。 無罪放免だ!」

  うれしさのあまり俺がさわぐと彰は笑いながら俺をみていた。

「今日は本当に助かったよ。ありがとう」

  心をこめてそう言うと、彰はまじめな顔をして

「あのねぇ。そういう顔でそんなこと言われると変な気おこすから、早く着替えてよ」

  そういって横を向いてしまった。

  俺はまた自分の顔が熱くなるのを感じた。

「ば、ばかじゃねーのか。俺は女じゃないっつーの」

  そう言ってあわててドレスを脱いだ。

  かつらをとって顔を洗って、自分がもってきたシャツとパンツに着替える。

  ものすごい開放感にうっとりした。

「なぁ、彰。 女って大変だよな。俺今度彼女ができたら洋服選ぶのに時間かかっても、メイクなおしにトイレ

へいっても、遅いぞなんて文句言わないって決めたよ」

「今は彼女いないんだ」

「ふん。モテモテのお前と比べるなよ。でもまだ別れたてほやほやだ」

「僕だって誰とも付き合ってないよ。ただ女の子がまとわりついてくるだけで」

「お前〜。顔面にラリアットみまうぞ」

  こんな会話をしていたら、つと彰がキッチンへ向かった。

「あれだけじゃ、足らなかったろ。なにか作るよ」

「え、 彰って料理作れるの」

言われてみれば腹へった。 確かにホテルで食べたのじゃものたらなかったし。

「まぁね、それに飲み足らなかったろ。ビールくらいなら冷蔵庫にはいってるよ」

彰はウィンクしながら俺を見た。 

「うほっ。最高っ」

「材料はたいしたのないから野菜パスタくらいかな。できるのは」

そう言いながら、がさごそと冷蔵庫を探る。

「おい、その赤と黄色のピーマン!俺ピーマン嫌いだから入れないでくれ」

「これはピーマンじゃなくてパプリカ」

「なんだよ、それ。ありえねぇよ、一人暮らしの男の冷蔵庫にはいってるもんじゃないだろーが」

言い合っているうちに彼は取り出した玉ねぎをさくさくと切り、きのこを切り分け、それをフライパンで炒めたりと手際がいい。



俺はというとすっかり『男』にもどってご機嫌だった。

 

  冷蔵庫からビールをもらおうと思って……やめた。

「どうしたの、 飲んでていいよ」

  それに気づいた彰が俺に声をかけてくれる。

「ん。やっぱ料理ができるの待ってる。一緒に乾杯したいじゃん」

「そうか。もう少しだよ。まってて」

  うれしそうに彰はいうと、 お湯の沸いたなべにパスタをいれてタイマーをセットしている。

「お前、本当に本格的だな」

  俺は後ろから覗き込んで感心した。

「慣れてるんだよ」

「そういうのは女にやらせてると思ったよ」

「やりたがる娘(こ)も多いけどね」

  またまた腹ただしいことをいう。

  そうこうしているうちにパスタは出来上がり、でかい皿にもられてやってきた。

  それを二つの小皿でとりわける。 他にも彰は高級そうなハムとチーズまで用意していた。

  すごすぎ。

  セレブだね。ブルジョワだね。俺だったらパスタなんて無理だし、サラミと雪印スモークチーズが精一杯。

 

  いよーし。乾杯だぁ。

  俺は待ってましたとばかりに冷蔵庫からビールを取り出した。

 

  彰も機嫌よく話をあわせてくれ、パスタもすごくうまかった。

  気がつくともう時計は11時を指していてそろそろここをでないと終電に間に合わない。

  ちらっと時計をみて俺がそんなことを考えていると、

「明日は休みだし、泊まっていけば」

  なーんて言ってくれたのだ。

「ヤッホー。泊まる。泊まる」

  ほろ酔い気分の俺はまた喜んでうなずいてしまったのだった。

 

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2005/1/9 update

2005/5/4 誤字、表記修正

2005/6/26 壁紙変更 

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