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 彰にエスコートされて会場内に戻ると……

 何か。

 雰囲気ちがわないか、さっきと。

 殺気だった視線、探るような視線が俺につきささる。

「おい、彰」

「何」

「気のせいかな。俺、にらまれてないか」

「うーん。注目あびてるってことじゃないの」。 しれっと彰が答える。

「何で、 何でだよ」

「王子様のような僕をあごで使っているから」

 こう言ってにこにこ笑っている。

「なんだって」

「しーっ」

 おいおい、日本で自分を王子って言っていいのは「及川○博」だけじゃないのか。

 そういえばこの視線はすべて女性からのものだった。今日の今日まで「視線」が痛いと思ったことはない。

 俺、男なのに……なんでこんなジェラシーの視線をあびないといけないんだよ。

「おーい。安心しろ。俺は男だ。心配するな」

 今すぐにでもテーブルにのって叫びたい気分だった。

 

 強烈な視線に緊張したせいか、急にトイレに行きたくなってしまった。

「彰、わるい、腹の調子悪くなってきた。ちょっとトイレいってくるからこの辺で待っててよ」

「調子悪いの。大丈夫」

 すると彰は心配そうにトイレの入り口近くまでついてきて、

「すぐそこで待ってるから」 だと。

「子供じゃないんだからさ。大丈夫だって」

 さすがにこう言うと。

「だめだよ。引き受けた以上はちゃんとエスコートするからね」

ってトイレまでくるのかよ。 やっぱコイツ、妙にノリまくってる……

 

 トイレに入って用をすませてもなんか気分が悪いままだった。

 そのまま化粧室の鏡を覗きながら、

 何だよ。あの視線は。思わず一人でぶつぶつ文句をいった。

 いやだね〜女のジェラシーってやつ。いや、なんかそれ以外にも何かこう、どきどきして落ち着かない。

 思いっきり顔を洗ってしまいたいがメイクがはげるのでそれもできない。

「やっぱさ。女って大変だよな」 

 明日から女性全般に(もっと)やさしくしようっと。 だって。怖いもん。うん。

 

 トイレから出ようと出口に向かうと、そこに同じパーティに参加していると思われる女の子が3人立っていた。

その中の一人が俺をみて 「こんばんは」。と挨拶してきた。 

か……かわいい。

 俺も返事したかったけど声をだすと絶対ばれるのでにっこり笑ってしぐさだけで挨拶して彼女の横を通りすぎ

ようとした。

 すると。

「あなた、沼田君のお友達かしら」

 と、話しかけてきた。 なんだ彰の知り合いか。

すぐに別の女の子が

「お『友達』よね。だってあなた、吉岡君の車にのってきたんでしょう」 

 うげ。 見てたのかよ、お前。

 さらにもう一人が

「じゃぁ、吉岡君の彼女なのかな。で、会場にきたら沼田君にお乗換えじゃ、ちょっとひどいんじゃない」

「は、 ほ、 へ?」

……なんだ、なんだ。

 こ、これってまさか、女子高生なんかによくある、『気に入らない娘(こ)をトイレでシメちゃう』の図?

 俺はこの展開についていけなくて、化粧室の外にでようとした。

 すかさず最初に話しかけてきた女の子が

「ちょっと、まだ話は終わってないわよ」

 そういって俺の手をつかんできた。

 うわわっ。どうなるんだよ俺。

 

 そのとき突然、

「お客様、もうしわけありません、こちらに圭さま、圭さまはいらっしゃいますか」

 なんとっ。

 ホテルの女性コンセルジュが俺を探しに来てくれたのだ。

 俺は勢いよく手を上げてそそくさと化粧室を脱出したのだった。

 俺がでていくと彰が飛んできて

「大丈夫だった」

「え、あの姉さんよんでくれたのお前なの」

「うん。大学の女の子三人がこわーい顔してケイのあと追っかけてはいったんだよ。なんか危ないと思って」

 そういってさっきのコンセルジュにお礼をいっていた。 本当によく気がつく奴だ。

「助かったよ……サンキュ。なんかあってもやっぱり女の子に手はあげられないしさ」

 なんか俺、涙目だよ。

 

「ここ出ようか。罰ゲームももう充分なんじゃない」

 彰にこういわれて、俺たち2人はこのまま会場から出ることに決め、フロントに預けていた着替えをうけとると

そのまま地下の駐車場へ移動した。

 

 奴の車はお坊ちゃまのお約束、ポルシェだ。いつも親父の会社の車を借りている俺は、なんかけなげ。

すると彰は俺が座るほうのドアをあけてくれた。

「おい、もうそういう事はいいって」

「ついクセでね」

 ははっはは……。ついクセだって。 どのくらいの女性をエスコートすれば『クセ』になるんでしょうね。

「あ、なぁ、俺ここでドレスぬいじゃだめかな」

「ここで着替えるの?」 

 彰がきれいな眉をひそめた。

「うーん。もし誰かが通ったら、どう思うかな。変に勘違いされるよきっと」

 彰がにやっと笑って言う。

 変なふう……と、いうと……。 

 やっぱりヤバイよな。

「あーーー。 はやく着替えたかったな」 

 車に乗り込みながら俺が言うと、

「僕の家、近くだから来る? ここから車で20分くらいだから」

「本当、いいの」

 俺は彰の顔をみつめて首を縦に振った。

「うん、うん! いくよっ」

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2005/1/6 update

2005/5/4 誤字、表記修正

2005/6/26 壁紙変更 

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