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「えっ……」

　思いがけない言葉に思考がとまる。

　でもその瞬間浮かんできたのは彰の顔だった。俺がまた美加ちゃんと付き合ったらアイツはどうするのかな。

　

　どのくらいの時間がたったのだろう。

　彼女は大げさに下を向いて「はあ」と息を漏らした。

「なーんだ」

　そして下を向いたままつぶやいている。

「まだ半年もたってないのに。結構浮気ものだ、圭一君は、って言うか私が悪いのよね、失敗したな」

　彼女は俺には何もいわず、ひとりで話を進めているらしい。

「美加ちゃん？」

　俺が言うと、

「圭一君、今自分がどんな顔したかわかってるかな」　ちょっと悲しげな目をして答える。

　自分じゃ、わからない。だから頭を振ると。

「顔にね、『困ったなぁ。もう他に好きな人がいるのに』って書いてあったの」

　今度はコーヒーをこぼしそうになった。

　でも、そんなことない、とは言えなかった。

　

　コーヒーを飲み終わってから二人そろってレジへと向かう。こうして二人で歩いていると連絡を取らなかった

期間がまるでうそのようだ。

　でも俺は……。

　外に出ると美加ちゃんが俺の手をぱっとつかんだ。女の子なのにこんな所がちょっと強引で、そこも好きだった。

「圭一君、このまま駅まで歩いていい？　……記念に」

　最後の記念に。音にならなかった言葉に、俺も何も言わずに頷いた。

　このカフェテリアは大学から離れていたけれど駅に行くまで大学近くの大通りを通る。

　あ、大学近くだ。

　そんな風に思った時だった。

　俺たちの行く手少し前にタクシーが止まっているのが見え、そしてふと、中に乗っている人物と目が合った。

　　彰だ。

　どきっとした。いつから、いつから俺に気がついていたんだろう。

　彰の隣にはレイコさんが座っていて携帯電話で誰かと話をしている。

　彰の視線は俺から少しそれて隣にいた彼女を見つめ、それから俺たちの手元を見た。

　そしてまた俺と目を合わせて、ふっと微笑んだ。　いつもするように少し首をかたむけて、でも少し寂しそうに。

　一瞬のことだったけれど俺は瞳の動きでヤツが何を考えたか理解した。

「ちがっ、違う、彰」　思わず彼女の手を離して駆け寄ろうとした。

　でもタクシーは俺がそばに行く前に発進してしまった。

　そして。

　車が発進するちょっと前、彰は俺から目をそらした。

　

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2006/5/7　 update

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