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「やっぱり」

 俺は溜息をついてスプーンを置いた。

「で、何か言った……よね」何となく予想はついていたけど聞いてみた。

 彼女はそのときの事を思い出しているのか眉をひそめ、そして話してくれた。

「うん……『お母さん、ぼくも』って何回も。大声で」

 あっちゃー。

「ごめんな。驚いたろ、って言うか、怖かったろ」

 俺はかいつまんで彼女に事情を話した。

 ちょっと想像してみれば分かる。

 まだ暗闇の残る時間。隣に寝ていた男が急にうめきだし、『おかーさーん』とか叫んで子供泣きしたら誰だって

ぶったまげるはずだ。思わず聖水ぶっかけようか、般若心経を唱えようかと思うくらいに。

「あ、あの。もう今は直ったみたいっていうか、ああいうことないんだ。……今更だけどさ。ゴメンな。」

 俺がそういうと彼女はふるふると頭を振って、

「ううん、私も何も言わずに逃げちゃって。圭一君のことだからきっと理由があったはずのに。私、『彼女』なのに」

そう言って 俺の顔を見つめている。

 それからしばらくの間2人ともだまったままフルーツパフェを食べ続けた。


 

「この間ね、お姉ちゃんが甥っ子連れて実家に遊びに来てね」

「え」 パフェに集中しすぎて一瞬聞きもらした。

「お姉ちゃん。覚えてる? 私にお姉ちゃんいるの」

 あいにく俺はアイスクリームの塊を飲み込む途中で返事ができず、言葉のかわりに首を縦に振った。

「で、その甥っ子。いま3歳なんだけど一晩うちに泊まったのね、そしたらその夜、パパがいないって大泣きした

の。ビービー騒いじゃってもーすごかった。……大変よね」

 何でいきなりそんな話を始めたのかわからなくて俺も彼女の顔を見る。

「私も隣に寝ていたから見ていたんだけど。あの子、まるで……あの時の圭一君みたいだった」

 そう言われて俺は、スプーンを口にしたままそのシーンを想像してみた。

「子供を抱きしめてあやしているお姉ちゃんにね、『大変じゃない?』ってきいたら、『平気よ、大変だけど、

この子のことだーい好きだから何でもできちゃう』なんて言うの」

「ブヘッ!」

 それを聴いた瞬間、俺は口の中がパフェのフレークで一杯になっていたにもかかわらず噴出した。

 

 

「大丈夫?」

「へ、平気、平気。本当にゴメン」

 彼女は汚れたテーブルの上をきれいに拭いてくれ、心配そうに俺を見つめている。

 

『だーい好きだから何でもできちゃうの』

『僕はケイのことが好きだから』

 

 彼女の言った言葉と彰の告白が俺の中でくるくる回っている。

 ラブラブ真っ最中のはずだった『彼女』が逃げ出したのに。彰は平気な顔して僕を抱きしめてくれた。

『だーい好きだから』 

 彰はあの時から俺のこと好きだったんだろうか。

 俺は、俺はどうなんだろう。

 彰のこと、そりゃ、どっちだって聞かれたら絶対好きだけど。

 どういう風に好きなんだろう。

 

「圭一君、どうしたの」 彼女は俺の顔から目をそらさない。

 そして上目使いに聞いてきた。



「圭一君、私もう逃げないから。今度こそ逃げないから。つきあっていけるよね」

 

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2006/2/19  update

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