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「やっぱり逃げられないな」

 ようやくあきらめた俺はその晩、ため息をつきながら彰に電話をした。

 するとワンコールですぐ繋がった。

「圭一、 あれから連絡ないから罰ゲームなくなったのかと思って心配したよ」

 本当に心配そうな声を聞いて俺はちょっと胸がきゅーんとした。

「う、うん。忘れてくれないかと思って、その件には触れないようにしていたんだけどやっぱりだめだったよ」

 すこし沈んだ声でいった。

「明日は衣装合わせなんかに行くんだぜ、ちくしょう」

 すると彰は軽く笑って、

「さすが、本格的だね。当日が楽しみになってきたよ。実をいうと僕もこのパーティ憂鬱だったんだよ」

「え、憂鬱、何が」

 すると俺の質問には答えず、

「明日、衣装合わせ終わったらまた電話してよ。何着てくるか聞いておかないと当日みつけられないと

いけないし」

「ん、分かった」

「まだ知り合ってないことになってるから当日迎えに行けないのが残念だけど」

 あほなこと言い出したので、

「ったりめーだろ。じゃ、明日また電話するから」

 そういって電話をきった。

 なんだこいつ……デートの約束をした女の子の気分ってこんな感じだろうか。

 

 翌日、俺は講義が終わると吉岡と黒田に拉致されるように美容室へとつれていかれた。

 やたらとゴージャスな大理石の入り口をはいると、きれいな女性が出迎えてくれてた。

 おおっ。けっこう好みのタイプ……。

 彼女は黒田から事情をきいているようで、

「あなたが相原さんね。大変なめにあっているわね」

 と声をかけてくれた。

「一生懸命、ごまかせそうな服を選んでおいたから試してみてね」

 なんて言ってくれる。

 ああ、鈴の音のような声、ってこういうことを言うんだよなぁ。

 ほわわーんとしているうちに、赤だの黒だのいろいろな服を着ては脱ぎ、着ては脱ぎ……

 そしてついに

「どうやらこれが一番女性らしくみえるわね」

 彼女がそういってくれた服は黒のドレスだった。

 ただし下に同じく黒のひらひらしたパンツをはくタイプのものだ。見ようによってはロングドレスに見える。

 これなら俺の脚もみえない。

 そでもひらひらしていてひじまで隠れる。ながめの手袋をして手をかくす。

 鏡をのぞくとなるほど悪くない。さすがプロのチョイスだ。

「まだかつらもかぶってないし、メイクもしてないから変だけど。うん。結構いいわよ」

 そう言って俺の周りをぐるりとチェックした。

「なんだか私も楽しくなってきちゃった。目いっぱいやるわよ」

 それからがまた長いんだ。

 メイクだかつらだ、アクセサリーだ……俺はまるでおもちゃのようだ。

 しまいには手のあいたほかのスタッフも参加して大騒ぎ。仕事はどうしたんだよ、お前たち。

「これでどう、すばらしいわ。私の自信作よ」

 そういわれて恐る恐る全身を鏡にうつしてみると。

「う、うそだろ……」

 なんと俺はちゃんとした女性にみえた。

 つーか、いけてるじゃんか。

「すごいよ。さすがプロだよ。これ。メイクってオソロシイなぁ」

 横で様子をみていた吉岡も黒田も目が点になっている。

「おい、俺ってさあ、実はすごくいい男なんじゃないか。だってこんな『美少女』に変身できるんだぜ。」

 俺が調子に乗って言うと、

「ふん。プロの手にかかったんだ。当たり前だろうが」 と黒田がすぐに冷たい返事をよこした。

 

 なんだ、かんだ言いながら準備ができてしまった。

 当日はお昼から美容室へ行ってメイク他もろもろしてもらうことになった。

 とほほ。諦めが悪いが俺、やっぱり逃げられないのかな。

 めちゃくちゃへこんだ気分。

 吉岡たちと別れた後、すぐに彰に電話をした。

 またワンコールで繋がる。

「おおっ、まるで俺からの電話待ってたみたいだなぁ」

 驚いて言うと、

「待ってたんだよ」 大真面目に答えられてしまった。

 は。 もしも俺が女で、彰ほどの美形にこういわれたら舞い上がるだろうな。

「で、圭一は何を着てくるの」

「黒のドレス。髪は茶髪でセミロング。胸に金のコサージュ。腰にも金のベルト。なんでも祝いの席で

黒を着るときは金をじゃらつかせるといいんだって」

「黒のドレスか。楽しみだね。当日は5時半開場だけど何時にくるの」

「うーん。始まるの6時だろ。ぎりぎりに行こうかな。少しでもいっぱい人が来てからのほうが目立たないだろうし」

なんだかまたブルーな気分になってきた。

「じゃぁさ」

「うん、何」

「出会いの演出どうしようか」

 おいおい、こいつまでなんだかうきうきしているようだ。吉岡といい、黒田といい、俺はみんなのおもちゃかよ。

 

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2005/1/3 update

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2005/6/26 壁紙変更 

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