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 ……彰のヤツ、ちゃんとレイコさんに電話したのかな。

 ああ、レイコさんのせいであれからずっと彰のことばっか考える羽目になったじゃないかよ。




 イライラしながらもなんとか受講し終えて講堂を出ると、まるでそのタイミングを計ったかのように携帯の

メール着信メロディーが鳴った。すぐにメッセージを見ると。

『よっ、お・ま・た・せー 噴水前広場にて、僕と握手! 吉岡』

 ガクッと力がぬけた。

「あの馬鹿、なに後楽園ヒーロー気取ってんだ、ったく」

 

「よおおおおおお、こっちこっち」

 構内の噴水前に着くと吉岡はすでに来ていて俺のほうを向いて千切れんばかりに手を振っている。

 他に大して人も障害物もないのに……アイツやっぱ馬鹿な上にアホだ。

「で、今日はどこへ行くんだ」

「んー、まあ、ちょっとこいよ」

 あれ、いつも会えば勝手にしゃべり倒す吉岡がおとなしい。ひょっとして恋愛の悩みを聞いてほしいとか。

  ありえねえ。

 そんなことを勘ぐりながらも付いていくと、大学からちょっとはなれたところにあるカフェテリアに着いた。

「うわっ、お前が来るにしちゃ可愛らしすぎるよ。この店」

やわらかい光に包まれているようなクリーム色の壁、木の椅子、おなじく木のテーブル。かわいらしいたくさんの種

類のケーキがガラスの向こうに並んでいる。

 こういう感じの店だから当然、女の子の客で一杯だ。

「おい、やっぱりここ野郎同士で来るにはちょっと……」

 そこまで言いかけたとき、奥のほうの席にいた女の子がこちらを向いて立ち上がったのが見えた。

 

「あ……み……美加(みか)ちゃん」

 なんと……あの晩からぷっつり連絡をくれなくなっていた俺の元彼女、美加ちゃんだった。

 俺は数ヶ月前まで彼女と付き合っていた。合コンで知り合って意気投合して。どこにでも転がっているよくある

出会いのパターンだ。

 そういえばあの合コンには吉岡と黒田もいたっけ。

 そう思い当たってじろりと吉岡を見る。


「ああっ、あれ、ひょっとして美加ちゃーん。すっごい久しぶりだなぁ。元気だった? いやあ偶然」

 吉岡っ、てめえ……わざとらしい……大根のほうがお前よりまだ演技うまいぞ。

 その後さらにわざとらしーく、「なんかオレお邪魔? いやあ、今度おごれよお前」なんていまどきお見合いでも

言われないようなセリフをはいて立ち去ってしまったのだ。

 

 俺の目の前には吉岡が勝手にオーダーして行ったフルーツパフェがどどーんと立ちはだかっている。

 もちろん彼女の分も。

 二人してフルーツパフェを挟んで向かい合ったまま無言。ちくちょう、吉岡って彰とは別の方向でおせっかいだ。

「ごめんね。吉岡君から電話をもらって……それで私が頼んだの」

「え」

 彼女の小さい声が聞こえて俺は顔をあげた。

「急に連絡しなくなってごめんなさい」

「いや……俺もしなかったしさ……」 答えながらももぞもぞとパフェに手を出した。

「時間がたつほど連絡しづらくなって。着信拒否されていたらどうしようって思うと電話できなくなっちゃって」

 俺はアイスに突き刺さっているメロンにかぶりついて

「あ、それ俺も思った。……で、実は俺も聞きたいことがあったんだ」

 すると彼女もスプーンをとってパフェを食べ始めた。お互いようやく変な緊張が取れたみたいだ。

「あの、あの晩さあ。俺寝ぼけて変なことしなかった」

 そういうと。彼女はパフェをいじっていたスプーンをぴたっと止めた。

「いや、ああ、俺この間友達のところに泊まったんだ。そしたらその友達に言われてさ」

 とはいえ、彼女の今の反応をみれば俺ってやっぱりなんかしたんだなぁって分かる。

 

「圭一君……、いきなり泣き出したの」

 

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2006/1/29  update

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