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「おーい、相原、あいはら、圭一くーん」

 翌日、大学のレストランで吉岡につかまった。どうしてこいつは会えばいつもヘッドロックをかけてくるんだ。

「いてて、うるせえよ。なんだよ」

  俺は吉岡の腕を解きながら聞くと。

「な、今日は次の講義受けたら終りだろ。ちょっと付き合えよ」

「なんだよ」

「まあ、まあ、つきあいなさいって。じゃ、詳しくは後でな。携帯に電話するから」

 吉岡は言いたいことだけ言うと俺の返事も聞かずに行ってしまった。

「なんだよ、あいつ。人の都合もろくに聞かないで」

 あーあ、また『いっしょに秋葉原で並んでくれ』かな、それとも『多摩地区のコンビニを渡り歩いてガンダム

フィギュア付きお菓子を大人買い』とかだったりして。まったくいいかげんにしろよな。

 俺にだって都合ってもんがあるんだ。いろいろ考え事だってあるしさ。



 そんな風にむくれていたら、突然携帯から『カノン』が流れてきた。

「あれ、こんな着メロにしてたっけ?」

 なんて思いながら着信画面をみると『柏木レイコ』と表示されているじゃないか。

「はあ、なんでレイコさんが?」

 あわててとってみると、がさがさ音がした後にレイコさんの声が響いた。

「あ、圭一君、あたし、あたし。レイコ、覚えてるわよね」

「……ちょっとレイコさん。いつの間に俺の携帯に登録したんですか」

 すると豪快な笑い声が聞こえて、

「この間ちらっと携帯をお借りしたときに念のため入れておいたの。ね、彰そばにいない?」

 と、きたもんだ。

「彰……って何かあったんですか」

「携帯に連絡してもつかまらないのよ。いい仕事がきたんだけど。ね、お願い。大至急探してみてくれない。

ああっ、ちょっと、そこの交差点右に曲がって頂戴! ええと、圭一君、頼んだわよ」

 タクシーにでも乗ってるのか誰かに大声で指示を与えつつ電話はきれた。

相変わらず強引なレイコさんは吉岡同様、俺の返事なんか聞いてない。

「あーもう、皆勝手なんだよ」

 俺は目一杯ため息をついた。だいたいさ、俺、今彰と連絡とりにくいんだぞ。

 だってその……何をどう話したらいいんだよ。今はタイミング悪いんだってば。


 ……でも事情が事情だからな。図書室とか屋上とか見てみようか。

 それとも。レイコさんはつながらないって言ってたけど、俺からも電話してみようか。

 一応探したって証明になるしな、何にもしていないと後でレイコさんに怒られそうだ。

 俺は仕方なく自分の携帯を取り出して彰の番号をプッシュする。


 ところが。


「ケイ?」

 なんと彰はいつも通りワンコールででやがったのだ。

「あれっ、彰。なにお前、いままで携帯につながらないところにいたの」

「ううん、つながる所だったと思うけど、もしかして何度も電話くれたの」

 うわっ、な、なんか彰の声がうれしそうに聞こえる。

「あ、あのさ。レイコさんから電話があって」

 すると彰はだまりこんでしまった。

「ええっとさ、この間レイコさんに俺の電話取り上げられたことあっただろう? あのときに勝手に番号登録

したらしいんだよね」

「ふーん。レイコさんらしいな」

 その嫌そうな言葉の雰囲気から俺はあることを察した。

「お前さ、レイコさんからの電話わざとでなかっただろう。出てやれよ、急ぎの仕事って言ってたぞ」

 すると大きなため息が聞こえた。

「うん。携帯にメッセージが残ってたよ。ね、ケイ」

「なに」

「ケイが一緒に来てくれるなら行こうかな」

 はあ、って、レイコさんのあの急いだ雰囲気からすると今日っぽいよな、今日だと吉岡と先約があるし。

「ええっと、今日だったらだめだな。吉岡と約束してるし」

「吉岡くんって、ああ、ケイの友達のアイツのこと。そっか」

 彰の声が小さくなった。

 うう、なんだよ。まるで俺が悪いこと言ってるような気がするじゃないか。

「と、とにかく、レイコさんに電話してやれよ」

 俺はそう言って電話を切った。
 

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2005/12/12  update

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