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 やっぱさぁ。告白されたなら何らかの答えをかえさないといけない……のかな。

最後に彰に会ってからというもの、俺の頭は彰のことだけででいっぱいになってしまった。

 

 彰のことはキライじゃないけど、男同士ってのはやっぱりなぁ。

 考えたことないし。

 ……と、いうかあんまり考えたくないし。

 彰は気持ち悪くないけど、他のヤツ、例えば吉岡とかだったら……げふ。やっぱ気色わる。

 って、それもどうなんだよ。

 

 こんな感じで色々な思いが浮かんでは消えていく。頭の中は100人の俺、チャット状態。

 

 ああもう、やめだ、やめだ。

 俺はぶんぶんと頭を振った。何もなかったことにしちゃえばいいじゃんか。

 

 そうは思いつつ、大学構内でたまに彰を見かけると心拍数があがっておたおたしてしまう自分。

 無理だ。もう俺自身、なかったことにできない。

 

 夜、家で食事をしている時も『脳内弁論大会』で目が点になっている俺を見て親はもちろん、兄貴までが心配

そうな目で俺を見ていた。それは分かっていたけれど。みんなに心配かけてるって分かっているんだけど。

 でもどうしようもなくて。

 

「タバコ買ってくる」

 いそいそと食事を終えると小銭入れだけもって外に出た。

 

 家の近くを流れる大栗川。その川岸はきれいに舗装されて遊歩道になっている。

「あーあ、ちょっと前までは野原だったのになぁ。八○子市の野郎、税金使って余計なことしやがって」

 そうつぶやいて石で作られたベンチにすわりこんだ。

 

「おおっとぉ、いたいた、おーい、圭一!」

 あん?

「……んだよ、兄貴かよ」

「なんだあ、そのセリフは。まったく、気の抜けた顔なんかして飯食ってるから心配するだろう」

 兄貴は俺の隣に腰掛けてタバコを取り出した。

「お前も吸うか?」

「ん、ちょうだい」

 そのまま二人で何も言わずにタバコをすう。

 

「……あのさあ、言っておきたいことがあるんだけど」

 二本目のタバコを吸い始めた兄貴が口火をきった。

「なんだよ」

「お前の友達に言われるまで、父さん達が何にも考えてなかったなんて思うなよ」

 そういわれて思わず兄貴の顔をみた。

「その、母さんがちょっと『迷ってた』とき。お前が3つか4つの時な。今でこそ精神科なんていわずカウンセリング

なんていわれるようになったけど15年も前なんて行くだけでも大変だったらしいぞ」

 兄貴はふーっと大きく煙を吐いた。

「それに詳しい事だってお前が20歳になったら言うって親父はずいぶん前から言ってたんだ」

「……そっか」

 そうだ親父だって母さんだって別に俺のこと嫌っていたわけじゃないし、どうしようもない感情に何とか対応しようと

して一生懸命だったんだ。はあ、皆『そっち』のことで心配してくれているのに俺ってば。
 

 もう分かってるんだ。この間、母さんに「ごめんね」って言われて心の中に引っかかっていた『何か』が落ちて。

 『乗り越えた山は小さく見える』とはよく言うけど俺の中では母さんのことは完結しちゃったみたいだ。

 それを証明するかのように頭の中は彰の事ばっかりだ。

 

「あ、あのさ。そりゃ、親父から色々聞いて驚いた。俺には関係ないことだろう、ってあの時はムカついたけど。

もう過ぎたことだし俺だってもう20歳だしさ。だから俺はもういいんだ。母さんは自分のことを考えてゆっくり気持ち

を落ち着かせてほしい」

 すると兄貴がプッと噴出した。

「あれさあ」

「あれ?」

 何で兄貴が笑っているのか分からなくて聞いてみる。

「お前、母さんに『叔父さんはきっともっとかわいい人と結婚してる』とか色々言ったんだって? あれウケたよなぁ。

俺はそういう発想できなかったもんな」

「うん……俺、結構ひどい事言っちゃった」

 すると兄貴は俺の頭を軽くぺちっとはたいた。

「ちがうちがう。母さんそういう風に考えたことなかったらしくてさ。この間じっくり鏡なんかみちゃって。腹たたいてんの」

 あんまりおかしそうにしてるから俺もつられておかしくなってきた。

「なんだよ」

「それがさ……『あたしっていつのまに三段腹になったのかしら』だって。おいおい今まで気づいてなかったのかよー

って思ってさ。まあ、なんつーか、かわいいよな。あんな母さんの顔初めてみた」

 

 兄貴と二人笑いながら、ああ、これでいいんだって思った。お互い思ってること言い合って、怒って笑って。

 たまにいやな事があったって……家族だもんな。

 

 心地よいため息をついて夜空を見上げる。

 

 俺は大学の屋上から見る青空と……彰の笑顔を思い出していた。

 

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2005/10/4  update

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