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 俺は彰と明日、講義を受けた後大学の屋上で会う約束をした。




 屋上に来てぼんやり空を見上げると白い雲がのろのろ流れていく。


「……なんか雲にのってどっか行きたい気分だな。 おーい、筋斗(きんと)雲〜」

  

 昨日はあのまま部屋に閉じこもって不貞寝して、今朝は飯も食わずに大学に来た。


 はあ。なんか。やばいかも。

 よく考えたら、俺こんな気分のままじゃ彰にもひどいこと言っちゃうかもしれない。

 やっぱもう少し時間が経ってから。その方がいいよな。

 俺の頭の中でもう少し色々整理がついてからでいい。


「じゃあ、なんで自分から約束しちゃったんだよ俺。あ〜もう」


 幸い彰が受けてるはずの講義はまだ終わる時間じゃない。メールでまた今度にしてくれっていれておけばいい。

早速携帯を取り出してメールをうっていると、


「ケイ、もう来てたんだ」


 びくっ。

 な、なんでもう来るんだよ。

「あ、彰、お前講義どうしたんだよ。まだ終わる時間じゃないだろ」

 思わず腕時計で時間を確認する。

「ああ。面白くない授業だったから抜けてきた」

 あのなあ。

 さらさらした黒髪にブルーのシャツ。そして極めつけのスーパースマイル。

 いつもと変わらない彰なのに俺はやっぱりムカムカしてきた。


 だめだ、だめだ。いまは彰と話しちゃダメだ。


「あのさ。ごめん。やっぱ今度にして」

「ダメ」

 彰はしっかりと俺の手首をつかんで、

「話、あるんだろ」

 いつもより10倍くらいやさしげなその顔をみて俺は次回持越しをあきらめた。

 

「そうだな。話がある」

「うん、なに」

 なんだよ。絶対わかってるくせに。

 俺はため息をついた。



「……どうして親父に言う前に俺に言ってくれなかったんだ」

 そう聞くと、ヤツは目を細めて、


「ケイは僕が聞いていたら何て答えた」

 逆に質問されて俺は答えにつまった。どうして彰は俺が質問するといつも逆質問してくるんだよ。もう。

「たぶん、ほうっておいてくれって……言ったと思う」

 すると今度は彰がため息をついた。

「やっぱりね。ケイはそう言うと思った。僕はね、ケイ。その『放っておく』のが嫌だったんだ」

 コイツはやっぱりすげえおせっかいだ。

「俺、親父からいろいろ聞いた」

「そう」

「俺さあ、昔からめんどくさいこと考えるの苦手なんだよ。今までそれでも構わなかった。なのに今回いろいろ考え

なきゃいけなくて、まとまらなくて。昔のことなのにどうして今こんな……」

 彰はじっと俺を見ている。

「彰」

「ん?」

「俺、母さんにひどいこと言った。三段腹でウエスト無しとか、うぬぼれんな、とか。中年曲がり角のおばさんには

きつっいよな。ハハッ」

「……」
 

 俺は無意識にまた空を見上げて流れる雲を見た。

 


「なあ、彰。 どうして放っておいてくれなかったんだ」

 俺は何か答えが欲しくて彰に言った。

「ケイはこの問題ときちんと向き合って解決したほうがいいと思ったから」

 そんなの。そんなの頭ではわかってるよ。でも納得できない。

「お前、なんでそんなに俺のこと構うんだよ。お前ならほかにも一杯友達いるだろ。俺のことはもうあんまり気にしな

いでくれよ」

「ケイのこと放っておくなんて嫌だ」

「だからなんでなんだよ」

「毎朝ケイが泣いているのは嫌だ」

「気にするなって言ってるだろう」

 彰の顔は既に笑顔じゃなくなっていた。すごく真面目な表情で。



「ケイ、分からない?」

「わからねえよ。ぜーんぜんわからねえ」
 

 今度は彰が空を仰ぐ。



「簡単だよ。僕はケイが好きだから」
 

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