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「なんかよそよそしくて。母さんを見るとおびえた目をする。まるで子供のころのお前みたいだ」

 つっ、そんな事いわれても、俺だって思い出したくて思い出したんじゃない。

「そんなお前をみて母さんもまた調子を崩してる。おそらく……今度は『お前』に責められてる気がするんだろう」

 それを聞くと無性に腹がたって、俺は立ち上がった。

「……なんか馬鹿みてえじゃん。もともとは母さんの思い込みだろ。いつまで縛られてるんだよ。いい迷惑だよ、俺」

「おい、圭一」

 親父が俺を止めるように呼びかけてくる。

「親父、彰から何聞いたんだよ、ちくしょう。あいつ、あいつ俺には何も言わないで」

 思わずでかい声を張り上げると俺は部屋をでて体重を目いっぱいかけながら階段を下りる。

 そして足音をどしどしさせたまま、母さんのいる居間のドアを開けた。

 

「圭ちゃん?」

 最近はずっと『圭一』って呼んでたはずだ。今の母さんの目にはまた小さいころの俺が映ってるんだろうか。



「いつまでもうぬぼれてんじゃねーよ! もし叔父さんが生きてたらきっとあんたなんかよりずっとかわいい嫁さん

もらってるぞ。自分の今の姿鏡で見てみろよ。三段腹でウエストなんかないじゃないか。いい加減にしろ」

 

 俺は生まれて初めて母さんに大声でどなってしまった。

「圭一!」

 親父の怒気を含んだ声が後ろで響く。


 びっくりして黙り込んでいる母さんの顔を見ているのがいたたまれなくて、またどたどたと歩いて居間を出る。

 後ろから小さな声で「ごめんね、圭ちゃん」母さんの声が聞こえて……。

 

 俺の中で何かがポロッと落ちた気がした。

 

 階段を駆け上がって自分の部屋へ閉じこもった。

 親父は母さんのところへなぐさめにいったようだ。



 何だよ。俺。これじゃまるでガキのやることじゃんか。

 もうこんなめんどくさい事考えるのはいやだ。

 自分でもなんでこんなにムカツクのか分からない。

 俺が子供の頃、母さんが俺を避けていたのは俺自身に原因があるんだと思っていた。

 母さんが俺のこと苦手に思うならそれはそれで仕方がない。

 俺が今だにピーマンが苦手だってこととたいして変わらない。

 それでいい、そのままで放っておきたかった。



 なのに、何年もたってから『その記憶』は復活し、今また母さんを苦しめている。俺が成長して叔父さんの面影が

減ってやっと治ってきたっていうのに。

 そして今では叔父さんの幻影ばかりでなく、『俺自身』も過去のことで母さんを責めてまた傷つけてしまう。



 分からない。

 分からない。

 どうしたらいいのか分からない。



 俺も一緒にカウンセリングとやらを受けてみるべきなんだろうか。

いいや、それよりも。

 一番ムカついたのは俺の知らないところで皆がいろいろ動いていたことだ。どうしてもっと早く教えてくれなかった

んだ。

 じいちゃんやばあちゃん、親父に兄貴。それと、それと彰まで。



  彰まで。

 

 そうだよ。どうして親父になんか言う前に俺に言ってくれなかったんだ。

 いくらおせっかいだってやりすぎだと思う。


 気が付くと俺は携帯を取り出して彰の番号をプッシュしていた。




「ケイ?」




 いつも必ずワンコールでつながる電話。

 あいつの声が聞こえた。



「彰、俺……話があるんだけど」
 

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