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「そうそう、彰くんなあ、あの子なんかメンズノンノのモデルみたいだなぁ」

 げ。発想って遺伝すんのかよ。

「メンズノンノどころかパリでモデルやってるんだぞ」

 思わずそういうと、

「そりゃ本格的だなぁ。『おパリ』のモデルかあ」

 俺、何でこんなつまんないとこ親父に似ちゃったのかな。

 

「……母さんのことなんだけどなぁ」

「な、なんだよ。いきなり」

 親父はもってきたアルバムを俺に差し出した。

「何から話したらいいかなと思ったんだけどな、ま、これ見てみろ」

 いかにもずいぶん前の、って感じのアルバムだ。俺は別に何も考えずそれを開いた。

「これ、誰」

「ん? これが父さん、これが母さん」

 どひっ。2人とも幼稚園児? 親父たちが幼馴染だとは聞いてたけどこんなに小さいころから一緒だったなんて知ら

なかった。

「それでな、この脇のちびが父さんの弟。お前の叔父さんだ」

 それをみて俺は驚いた。

 

 これって。

 俺は立ち上がって先日彰に見せた自分のアルバムを取り出した。 ぱらぱらめくって自分の3、4歳のころの写真と、

叔父さんの写真を見比べた。

「うそだろ。いくら叔父さんだからって、これ」

 

 そっくりだ。

 

 オレはおそるおそる親父の顔をみた。

「ああ、叔父さんは亡くなってるの知ってるな」

「……うん。ずいぶん前に亡くなったって」

 どういう訳か俺は写真ですら叔父さんの顔を見たことがなかった。これが初めてだ。

「お前が生まれる3年前に事故でな」

 3年前か、それを聞いて思わずほっとした自分がおかしかった。

「父さんたちずっと一緒だったし、まあ、母さんももう空気みたいな存在で。父さんがここを継ぐって決めたとき

は当たり前のように結婚を考えた」

 ふん、ふん。

「だけどな」

 いきなり親父の顔が暗くなった。

「そう思っていたのは父さんだけじゃなかったんだな」

 親父はタバコを取り出して火をつけた。

「どういうこと」

「叔父さんも同じだったんだ。特に母さんと同い年だったから小学校からクラスも一緒のことが多かったし」

 へえ、本当に長い付き合いだな。

「で?」

「父さんと母さんが結婚するって伝えたその日に事故にあった」

 

 そんなこと、初めて聞いた。

 

「父さんは本当に事故だったと思うよ。でもなあ、タイミングが悪かったんだ」

「なんの」

「伝えたそのすぐあと、あいつ怒ってなぁ。それであいつも母さんが好きだったって知った」

 

……

 

 親父はタバコをつけたのをすっかり忘れたのか、灰がじゅうたんに落ちた。

「親父……灰皿」

「ああ」

結局タバコをもみ消すと、

「母さん、ずいぶんショック受けてたみたいだけど。結局予定を半年ずらして一緒になった」

 親父は何が言いたいんだろう。俺は話をききながら考えた。

「すぐ亮一が生まれて、しばらくしてお前が生まれて」

 そこまで話すと親父は俺の顔をみた。

 

「……叔父さんにそっくりになったお前をみて、まるで自分が責められているような気がしたんだと思う」

 俺は息が詰まるような気がして顔を伏せた。

 

「まさか……母さんが俺のこと無視してたのってそれが原因なの」

「……無視というか、顔が合わせられなかったんだな。それに最初に気がついたのは亮一だ」

 兄貴が。そういえば夢の中でもいつも兄貴にかばってもらっていた気がする。

「止めてもだめなんだ。ひどくなるばっかりで」

 そういいながら、もみ消したタバコを伸ばすようなしぐさをして、また灰皿へ戻した。

「一種の鬱みたいだった。お前に愛情を注げない分、亮一にいったみたいだな」

 親父は吸いもしないのに又別のタバコをとりだした。

 考え事をしたり悩んでいるときタバコをいじる、そんなところも俺、親父に似てるんだ。

 

「カウンセリングに通わせたり、父さんたちも母さんとお前から目を離さないようにしたりしてな」

 

 俺の頭は混乱してきた。だから、だから何なんだ。

「幸いなことにお前が大きくなると母さんも穏やかになった。だからもう安心だと思ってたんだ」
 

 俺が黙っていると親父が続けた。

 

「圭一、最近お前がちょっと変だな感じはしてたんだ」

 

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2005/6/16  update

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