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「うーん」
朝もう一度起きたとき彰は普通の様子だった……と思う。俺に密着して寝ていたことを除けば。
そのあと兄貴や母さんにあっても、まあ、普通だった。
取り越し苦労かな。
でもさ。普通に感じた割には最後手を振って別れるときの感じがいつもとちょっと違ったような気がしたんだ。
重い話しちゃったかな。 彰からしばらく連絡ないかも。はあ。
って俺、だからってなんで暗くなってるんだろう。今日もたっぷりと講義があるっていうのに。
「おーい、あ・い・は・らくぅーん」
この声は吉岡だな。
「何考え込んでため息なんかついてるんだよ、でさ、俺からのプレゼント喜んでくれたかな」
「何、俺お前からなんかもらったっけ」
すると吉岡は肩をいからせて、
「なんだよ、ウケると思ったのになあ、あの写真」
写真。
「あーーーーーーーーっ、思いだした。吉岡、てめ、この野郎あんな写真撮りやがって」
急に思い出して吉岡に殴りかかる、やつはそれをひょいとかわして、
「ははは、今頃思い出したか、ばかめ」
「全部消去しろ、おい」
「いいじゃないかよ、彼氏とのツーショット。撮っておいた俺に感謝しろ」
何言ってんだ。
「ぜーーーったい消せ。でないとかっわゆい妹の末子ちゃんに『兄ちゃんは隠し撮りをしている』ってばらすぞ」
「うっ」
そうだ。吉岡には妹がいてごつい顔に似合わずめちゃくちゃにかわいがっている。この前泊まりにいったとき
妹に甘々なこいつを見て思わずのけぞったくらいだ。
「わかったよ、じゃお前自分で消せよ」 そう言って自分の携帯を投げてよこした。
受け取って吉岡の携帯に保存されている画像をのぞくとあの写真のほかに2枚も撮ってあった。
「こら、やっぱ他にもとってるじゃんか」
「はははっ。いいじゃねーかよ。ラブラブシーン一杯で」
吉岡の頭を一発ぶん殴った後、他の写真をよくみると
「あれ?これアイツなにやってんの」
なんか誰かをにらみつけているような恐い顔をしている彰の写真があった。トイレに行くために会場に戻ったと
きかな。
「ん、お前気付いてなかったの、この時さあ他の野郎がお前に話しかけようとしたの。そしたらお前の彼氏が睨
んじゃってさ。下手に顔が綺麗だから恐いのなんのって」
「……彼氏って言うな」
やっぱりアイツ、馬鹿じゃないのか。携帯の狭い画面。彰の顔を見ながらなんかもどかしくなった。
自分でも理解不能な感情にくすぶりつつ数日がすぎ、すっきりしないまま自分の部屋でタバコをすっていた。
「おーい、圭一、ちょっといいかな」
すごくめずらしいことだが親父が俺の部屋の戸をたたいている。
「なに、どうしたの」
「おー、いたな、ちょっといいか」
何を話すつもりなのか手に俺が見たことのないアルバムを持っていた。
親父と部屋で向き合って話すなんて、おい、おい、初めてじゃねーのか。何話たらいいんだよ。
見た目冷静な振りをして実を言うとめちゃくちゃあせった。
「こんな時間だからいるに決まってるだろ」
「そうでもないだろう、最近泊まり歩いてたじゃないか、よいしょ」
そうか彰のマンションに行って泊り込んでたから。
親父は俺の座っている位置の正面に胡坐をかいて座りこむと手を組んでもじもじしてるっていうか、言葉を捜して
貧乏ゆすりしてるっていうか。
「お前、もうすぐ20歳だろう」
「親父たちがごまかしてなきゃな」
なんか気恥ずかしくて素直じゃない答えを返す。
「お前、体の調子悪くないか」
はああ。
「何だよ急に」
「いや」
「なんだっつーの、話ないなら出て行けよ。最近あんまり手伝いに行かなかったから文句言いに来たんだろう」
なんかまたいらいらしてきた。一体全体何だって言うんだよ。
「ちょっと昔の話しようと思って。もういいかと思ってさ。お前、最近子供のころのこと思い出すんだろう」
「へ」
「お前の友達に聞いたんだ。ほら、この間手伝いに来たあの綺麗な子」
「彰、アイツがなんか言ったの、なんて」
嫌な予感がして、いらいらして、俺は思わずでかい声で親父に聞いていた。
2005/4/26 update
2005/5/4 誤字、表記修正
2005/6/26 壁紙変更