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「ケイ!」

 彰に呼ばれて気がつくと……俺さあ、こういうことに慣れたくないんですけど。

 そう、俺はまたまた彰にしがみついていた。

 ヤツはというとそれが当たり前のように俺の背中をさすりながら心配そうな顔をしている。

 それが結構心地よかったりして。

 おわわっ。何考えてんだ俺は。さすがに目を覚ましてからいつまでもひっついているのはまずいだろう。

 そう思ってヤツから体を離して起き上がる。時計をみると朝の6時少し前。いつも夢で起こされる

時間と一致する。でも今回は夢のことをあまり覚えていない。

 とほほっ。俺、彰になんて言ってしがみついたんだろう。

 はあ。

 

「あ、あのさ。俺、また寝ぼけちゃった、のか」 ため息をつきながら聞いてみる。

 彰は何も言わずにうなずいた。

 やっぱ彰には言わなきゃダメだな。朝になったからこの後、母さんにも会うだろうし。

 そう思いながら不思議だった。

 夢のことをいろいろ話そうと思ったのはこれが初めてだ。父さんにも兄貴にも、親友のはずの吉岡にだって

あえて話そうとは思わなかった。

 話して同情されるのはまっぴらだったし、俺自身のなんらかの失敗をその『過去』のせいにされそうで

嫌だった。

 でも会ってからそんなに経ってないけど、彰には言っておいたほうがいい気がする。何も言わないとかえって

心配しそうだし。

 

「彰、あのさ」

 俺は彰のほうを向いて座る。

「うん」

「お前、俺がうなされるからこっちで寝たのか」

 そう聞くと、ちょっと首を傾げてからこっくりうなずく。

「うーん。それもあるけど」

 そういう彰を見て、やっぱりな、と思った。話すべきだよな。

「あのさ、彰には罰ゲームのときからいろいろと世話になってるしさ、それからも色々心配かけてるし。

だから話すんだけどさ」

 そう話し始めると彰は体を起こして、『ばっちり聞くぞスタイル』をとった。

 

「半年、いやもうちょっと前かな。前の彼女と付き合い始めた位から、俺子供のころの夢を見るようになったんだ」

「それって何歳くらいの頃の夢」

 彰が質問してきた。怖いくらいにじっと俺の顔を見つめている。

「幼稚園だから4歳くらいかな。でさ、そのころ母さんがちょっと精神的に不安定で。うーん、難しいな」

 俺は意味も無く頭をかいた。

「今考えれば、俺のこと怖がってたみたいって言うか。あんまりかまってもらえなかったんだ。理由は分からないけどさ」

「ふーん。で、お兄さんは」

「え」

「ケイのお兄さんに対してはどうだったの」

 おーい。彰クンちょっと恐いんですけど。

「逆にすごいかわいがってた、かな。 母さん兄貴とは気が合うみたいだし」

「ふーん」

「でもさ、小さい頃はじいちゃんもばあちゃんもいたし、親父も色々気を使ってくれたし」

 そこまで話してちろっとヤツを見る。 

「そ、それにさ兄貴もすごいかわいがってくれたし。中学位になると母さんも普通になって俺もなにも感じなくなった」

 すると彰はベッドから降りて自分のタバコをとりだした。

「悪い。吸っていい?」

「うん」 ちょっと驚いた。彰は部屋の中ではめったにタバコを吸わない。なのに。

 朝っぱらから重い話しちゃったかな……

 

「それから」

「あ、うん、でさ。俺夢で見るまでそのこと忘れてたんだ。なのに夢を見て思い出してそしたらなんか最近母さん

ともなんかぎくしゃくしてるというか。おまけに彼女にも振られちゃうし」

 彰はタバコの煙をはくと、

「4歳くらいか、その時のこと具体的に聞いてもいい?」 

 うーん。あまりツッコミいれてほしくないけど。

「ええっと、本当にあんまり覚えてないんだよ。さっきも言ったけどさ。ひどいことされたとかじゃなくて

母さんは俺に何もしなかったんだ」

 

 彰が『どういう意味』って顔して俺を見てる。

「なんていうか、母さんが俺におびえてそばに寄れなかった、っていうか。まあ、子供っぽいんだけどさ、

抱っこしてって言ってもしてくれなかったりとか、話しかけても振り向いてくれないとか、ちょっと距離を

おくっていうか」

「ケイ……」 どわっ。彰こえーぞお前、さっきから。

 

「彰、言っておくけど」俺は言葉をつづけた。

「だからって俺は母さんのこと嫌いじゃないし、人には合う、合わないがあるからそれがたまたま母さんに

とって兄貴と俺だったってことだと思ってる」

 そういうと彰はすこし目を細めて俺をみた。

 

「お前が心配してくれるのはわかってるけどさ、俺、幼児虐待とかそういうふうにとるの嫌なんだよ。

そりゃあ、もちろんよくないことだと思うけど。俺には何もなかった訳だし。あれってさ、『トラウマ』とかいって

大人になってから問題おこしたときの言い訳に使われるだろ。そんなこといったら小さい頃に両親と波長が合わ

なかった子供ってのは皆変ってことになるし、それも甘えてるみたいでいやだし……」

 なんか俺自分でも何言ってるか分からなくなってきた。

 

「だからさあ、なんで今更そんなこと夢でみるようになったか分からないんだよなあ」

 なんともない、というのを強調したくてわざとらしく腕を組んで悩んでみせる。

 

 ちらっと彰の顔を見るとタバコを吸いながら遠くを見ている感じだ。すると、

 

「ケイ、まだ早いからもうすこし寝ようか」

「へ?」

 彰はタバコの火を消してから平気な顔してベッドにあがってきた。

「お、おい、おい、おい」

「はい、いい子、いい子」

「アホ!俺はガキじゃねえ。大体お前あっちに布団ひいてあるんだからあっちで寝ろー、つーかあっちの

布団を使ってないと変じゃねーかよ。こら、わああ、だからひっぱるなって」

 

俺はもう起きるぞ、最近スキンシップが激しいんだよお前はっ!
 

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2005/3/19  update

2005/5/4 誤字、表記修正

2005/6/26 壁紙変更 

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