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「ん、ああ、ウチのかみさんね、たまには来るかな。」

 彰の突然の質問に驚きながら親父が答える。

「いいですね。ご家族一緒って」

 そういってスーパースマイルをうかべた彰に気をよくしたのか親父がべらべらと話し出した。

「そう思うかい。 俺もそう思うんだよ。なんてったってもともと三代続いた歴史ある風呂屋だからね」

「おーい。親父。そっからが長いんだからやめとけよ」

 しゃれ抜きで親父はこっからが長い。全部聞いていると明日の朝になる。

「特にね、15年前にここを大きくしてからは……」

 だめだスィッチ入ってるよ。親父。

「だいたい飯食い終わったならここはいいだろう。俺たちは勝手にやるから」

 そう言って、まだまだ話したそうな親父をおいだすと、

「彰、今日はおつかれさま。遅くまでごめんな。今日は俺酒飲んでないし、車で送るから」

「ケイ」

「ん」

「今日はもう遅いからケイのうちに泊めて」

 え。

「え、俺んち、ええっ、俺の部屋すっげえきたねぇし、お前のところと比べるとすっげえ狭いぞ」

「平気。平気。じゃ、よろしくね」

 っておい。本気かよ。最近掃除してないから部屋の中ごちゃごちゃかも。

 寝れるところなんかあったかなぁ。うーん。

 彰はもう決めた、とばかりに知らん顔してるし。 とりあえず兄貴に電話しよっと。

 

「あ、俺。圭一だけど。今日さ、友達に宴会の準備てつだってもらって遅くなったんだ。俺の部屋に泊めようと

思うんだけど。うん。お客様用の布団を俺の部屋に出しておいてくれれば先寝てていいから。ん、サンキュ」

 本当に部屋汚いんだけどなあ。

「彰、本当に汚い部屋だからな。後悔するなよ。ダニがいるぞ、ゴキブリが出るぞ、きのこがはえてるぞ。

はたしてきれい好きなお前に耐えられるかどうか。あー俺しらないぞ」

「平気だよ」 彰はニコニコしている。

 それよりまてよ。母さん大丈夫かな。友達連れて行くなんて何年振りだろう。

 

「彰。ここの風呂入って帰ろう」

「え、ここの」

「そう。俺んちの狭いから。ここなら二人いっぺんに入れるし」

 すると彰は困った顔をして、

「僕、人が一杯いるお風呂って苦手なんだ。個別のシャワールームとかない」

「え、苦手なの、つーことは入ったことないのかよ、銭湯」

「うん。別にケイのうちの温泉がいやとかじゃなくて、僕、やたらとじろじろ見られるから。たまに変なヤツが

寄ってくるしね」

 ふーん。顔がいいと苦労が多いんだな。でも顔はきれいでも男だしなあ。誰が寄ってくるんだろう。

 とりあえず彰はサウナ室の横にあるシャワールームへ、俺はいつもの浴場へ入った。

 

 風呂から出ると徒歩で自宅へ向かう。

 俺のうちは銭湯から歩いてだいたい10分のところにある。敷地は結構あるけど古い家だから、マンションに

慣れてる彰は大丈夫かなぁ。幽霊が出るぞーとか言えば帰ったかな。

「ただいま、っと、彰、静かにな。たぶんもう皆寝てるから」

「うん。おじゃまします」

 

 鍵を閉めていると、

「よ、おかえり」 兄貴が玄関まで迎えに来た。なんかびっくりした顔して立っている。

「あれ、起きてたの」

「こんばんは。遅い時間に失礼します」 彰が言うと、

「ああ、いらっしゃい。今日はどうも。それにいつも弟がお世話になってます。おい、圭一、ちょっとこい」

 てをひらひらさせて俺を呼んでいる。

「なんだありゃ、お前の友達にあんなのがいるのか。今までとは毛色が違うな」

「なんだよ」

「お前どうせつれて来るなら同じくらいの美女つれてこいよ」

 余計なお世話だって。

「何言ってんだ。俺もう寝るからな。布団運んでおいてくれたの」

「お前の部屋きたなくて入らないから、奥の客間に布団ひいてあるよ」

 へえ、気が利くじゃんか。そういや客間って手があったよな。

「サンキュ」

 彰と二階へいこうとすると、

「圭一、布団さ、母さんがひいたんだぞ」

「え」

「おやすみ。俺まだテレビ見るから」 兄貴はそういって居間に戻っていった。


 

 彰を客間に連れて行くと、

「ここがケイの部屋」

 そういってきょろきょろしている。

「あ、ここ客間なんだ。俺の部屋やっぱりごちゃごちゃしてるからここで寝ろよ」

「ふーん。……ケイの部屋が見たいな」

 うっ。汚いから見せたくないんだよな。それにしてもコイツなんでそんなに見たがるのかな。

「だからばっちいの。俺の部屋」

「ばっちい?」 彰、意味分かってないな。これだからおパリ育ちは困る。

「汚いってこと」

「ああ、平気。平気」 

 こいつ寝る気なしだな。もーしょうがないな。

「ちょっと待ってろよ。せめて部屋の空気入れ替えないと死ぬぞ。きっと」 よく考えたら俺昨日帰ってないし。

 部屋に入ると、やっぱりすごかった。ベッドは起きたときのままぐちゃぐちゃだし、パジャマは脱ぎ捨ててるし。

 適当にひろって軽く片付ける。窓を開けて空気を入れ替えてから彰を呼ぶ。

「おーい。彰。いいぞ」
 

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2005/2/28  update

2005/5/4 誤字、表記修正

2005/6/26 壁紙変更 

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