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「ねぇ、これってもしかしてあなたなの」

 レイコさんがおそろしいほどの笑顔で俺に聞いてくる。

「いいえっ!!! 断じてちがいます! いでで……こら、彰!」

俺がレイコさんから携帯をとりかえそうともがいているのに、彰ときたらいまだに俺の頭を抱え込んだ

ままだ。 

「あらそう。あなたじゃないの。ふーん」 

 にやにや笑うその顔は「うそばっかりぃ」。と言っているかのようだ。 ううっ、絶対ばれてるっ。

「あ、おい、彰、休憩おわったみたいだぞ。いけよ」

 すると彰は肩をすくめてやっと放してくれた。 それと同時に俺はレイコさんから携帯をとりかえす。

「あら。もうちょっと見ていたかったのに」

 レイコさんてば、顔笑ってるのに目がマジ。 怖い。

 

 撮影はさっきの「恋人バージョン」のつづきのようで、彰の隣には女の子のモデルがいる。

 それにしてもまあよくカメラの前でいちゃつけるよな〜。 

 かわいいおねえちゃんとご一緒でうらやましいといえばうらやましいけど。

「はい、顔よせて。かるくキスして」

 カメラマンが指示をだす。 げ、キスって、そんなことまでするんだ。

……なんかちょっと複雑。

 

「もったいないわ。その写真みたいに笑えたらもっともっと仕事がくるのに」

 レイコさんが腕組したまま彰をみている。

「レイコさんって彰とおなじモデルさんかなんかですか」

 疑問に思っていたことを聞いてみる。

「あら。私まだまだモデルでいけるかしら。そういえば自己紹介がまだだったのよね。私は柏木レイコ。

レイコってね、カタカナなのよ。 で、一応私はモデル斡旋の会社社長なの。すごいでしょ」

げっ。社長ぉ。すげえ。でもこの人いくつなんだろう。

「すごいな。女社長なんてカッコイイですね」

「あはは。でもね、これが大変なの。モデルになりたい子は一杯いるけどなれる子は少ないのよ。

彰はね、その少ないなかの一人だと私は思うの。あの容姿、努力じゃ手に入らないでしょ?」

 厳しい顔をして言う。

「でも一番必要なのはぎらぎらした野望みたいなもの。上にあがりたいって欲。まぁ、それがある

のも才能のひとつなのよね。 ……そう、あの子きっとそれが不足してるのよ。何かきっかけがあれ

ばいいのよ。まずはあの笑顔をなんとかしないとね」

 レイコさんは一人で納得したように話すと俺をじっとみつめた。

「は、はあ」

 うわ。こういう話をきくとレイコさんって経営者なんだなって思う。 

「あなた、名前は」

「あ、俺もまだ言ってなかった。すみません。相原圭一です」

「そう。圭一君か。ね、あなたも写真とってみない」

「はぁああ」

「もちろん本当の撮影じゃないわよ。 何枚かポラとる程度。せっかく見学にきたんだしモデル気分も

体験してみるってのはどう」

「いや、俺は……」

「男の子は遠慮なんかしない、こっちきて」

いや、遠慮じゃなくって!

「ちょっと、みっちゃん、 この子メイクしてあげてくれる」

レイコさんは俺をひっぱってどうやらメイク担当の女性に話しかけている。

「メイクぅ? レイコさん、俺やめときます。いいですってば」

そういってるのに強引に椅子に座らされてしまう。 

「5分くらいだから。じっとしてて」

そう俺に耳打ちした。

なんか俺、強引な女性に弱い……。まあ、ちょっとポラを撮るくらいならいいか。

あきらめておとなしくしていることにした。

メイク担当の女性が俺の髪をピンで留め、顔にぺたぺたなんか塗ってる。すごい素早さ。

「へぇ、君、結構肌きれいだよね」

「そうっすか」

こんな会話をしつつメイクをしてもらう。 レイコさんは俺の横にたってにやにや笑っている。

「これで終わりよ」

そういわれて唇にべたべたしたものをぬられる。口紅とはちがうけどつやつやしているやつ。

男でもこんなの塗るんだな。 部屋の隅っこで鏡もないところでのメイクなのでどうなってるのか分からない。

「ちょっと髪なおすからね」

そういわれて髪にもべたべたムースをつけられた。

「あら、かわいいじゃない?」

かわいい、 男にそれはないんじゃないのか。

「こんどは服。ちょっとこれ着てもらえる」

……なんか明るい色のジャケットだな。とりあえず羽織ってみる。まあ下はジーンズだし、変ではないか、な。

「あら、いい出来じゃない。じゃ、軽く撮ってみようか」

レイコさんに腕をひっぱられていかれたのはさっきまで彰が撮影していたその場所だ。

俺がメイクしている間にまた休憩になったのか彰も他のモデルの子もいなかった。

「ねぇ、この子ためしにとってみてくれない? ちょっとでいいの。写った写真をみてみたいんだけど」

レイコさんがカメラマンに向かって言う。

「また新人発掘かい。 しょうがないな。ないしょでちょっとだけだよ」

そういいながらカメラを覗く。

え、 ポラロイドとかじゃないのか。

「あ、ちょっとまって。 彰、ちょっときて、この子の相手してあげて!」

はぁ、 相手ってなんだよ? ちょっとやな予感がしてきた。

「ちょ、ちょっとレイコさん、カンベンして。 俺、そんなつもりじゃないし……。立ってるだけしかできないし」

「いいのいいの。ちょっとカメラに背をむけて立ってちょうだい」

彰は俺と気がつかないのかめんどくさそうに、こっちに向かって歩いてくる。

俺はいわれるまま背をむけた。

まわりこんで向かい合うように立った彰は今度はすぐ俺に気がついたらしい。 すごく驚いた顔をした。

「ケイ?」

「レ、レイコさんが試しに撮ろうって誘ってくれてさ、それでさ、俺いやだって言ったんだけど……」

そう言って彰の顔をみたら。 おい、でたよ。いつものスーパースマイルが。

俺の背後でシャッターをきる音がする。

「いいね」

なんて声も聞こえる。 うがー。 何がおこってるんだ。 なんだよ背中だけ撮られるのかよ。 俺は。

「ちょっと顔近づけて」

はああああ?

すると本当に彰の顔が近づいてきた。

「ちょっ、ちょっ、彰……」 俺がびっくりしていうと。

「動いちゃダメだよ。撮影だからね」

そういって彰は俺の頬にキスをした。

「ハイ終了」

そういわれ、我に返って振り返ると、レイコさんが満足気に立っていた。
 

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2005/1/30 update

2005/5/4 誤字、表記修正

2005/6/26 壁紙変更 

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