Kaoru Tachibana (C) all rights reserved.  

このページで使用している素材の2次配布を禁じます。 内容の無許可転載は厳禁です。


 どうしようかな。 電話してみようかな。

 いや、ちょっとまて。男友達に電話するのになに緊張してるんだ俺は。

 アホらし。やめた。やめた。

「今日は帰るか」

 口にしていたタバコを無造作にポケットに戻すと、出口に向かった。

 

 門のそばまで来ると、10メートルくらい先を見たことのある背中があった。

 姿勢のいいその後ろ姿はすこしはなれたところから見ても誰かわかる。

 彰だ。 こんなところで会うなんてめずらしい。俺は声をかけることに決めて、走りよった。

「おーい。彰」

「ケイ」

 振り返った彰は目を見開いてちょっと驚いたような顔をしている。

 すると門をでたところでタクシーが止まっているのが見えた。

「彰、待ったわよ。早く乗って」

 タクシーの中から、ばっちりメイクのいかにもばりばり仕事しちゃってます、という感じの女性が彰を

呼んでいる。

 彰の顔をみると心なしか嫌がっていそうに見える。

 やべー。 俺、声かけないほうがよかったのかな。

「あ、おい、呼んでるぞ」

 俺が言うと、

「じゃ、また」

 彰はそういってタクシーに乗り込んだ。

 じゃあな、俺もそういって立ち去ろうとすると。

「あなた」

 いきなりでかい声で呼び止められる。びっくりして振り返ると彰を呼んでいたあの女性がタクシーの

 窓から顔をだして俺を呼んでいる。

 彰は無表情だけど、なんとなーく「しまった」って感じの顔をしている。

「あなた、彰のお友達なの」

「ええと、はい。そうです……」

おもわずその女性の勢いにのまれる。

「ふーん、彰のお友達」 すると急ににーーーーーーっこりわらって(申し訳ないけど真っ赤な口紅がちょっと

こわかった。)

「ねぇ、これから彰と仕事なの。一緒にどう、見学しに来ない」

 そういって窓から身を乗り出して俺の手を「がっつり」つかんだ。

 こ、これってお誘いじゃなくて、来い、ってことじゃないでしょうか。

「でも、あの……」

 俺は彰の顔をちらっとみる。

 彰は困ったように、でも俺に向かって微笑んでみせる。 うー。 これって来てもいいよ、ってことかなぁ。

「さ、早く乗って」

 返事をする前に強引にタクシーに引っ張りこまれた。

 車の中で彰の隣。 でもなんかいごこちがわるくてだまっていると、

「ごめん。逃がしてあげたかったんだけど。レイコさん、強引なんだよね」

 彰が俺に顔をよせて小声でつぶやく。

「レイコさん」

「そ。これから彼女とモデルのバイト」

「あ、撮影か。お前日本でもモデルのバイトしてたのか」

「うーん。まあ、こういう業界も狭いから。 急に予定していたモデルがダメになったときとかに声がかかるよ」

 モデル世界のシステムはよく分からないけど、そうなのか。 へぇ。 

 

 車で30分くらい移動したろうか。

 場所は広尾かな。 ちょっとおしゃれな感じのビル。

 そのビルの奥に入っていくと、だんだんライトとかごちゃごちゃしたものがおいてある部屋にたどり着いた。

 スタッフらしい人たちが7,8人くらいいて忙しそうに撮影の準備をしている。

「ケイ。僕これから着替えとメイクしてくるからここでまってて」

「うん」

 彰がちょっと心配そうな顔をしたので、

「子供じゃないんだから、心配すんなよ」 

 俺がいうと、吹き出すように笑ってもうひとつ奥の部屋へ入っていった。

 ふと気がつくとレイコさんはいなかった。 彼女って一体何者かな。モデルさんには見えないけど。

 

 俺さあ、撮影っていうともうちょっと広いところでやるのかと思っていた。なのに、ここはすごく狭い。

 と、いうか狭苦しい。天井はわりと高いのにいろんな機材がぶら下がっているせいだろうか。

 撮影場所となる中央にだけライトを集中して当てるらしく、何度もスタッフが光の加減をチェックして

いる。

 カメラマンがその前に立っていろいろと指示をだす。

 横をみるとかわいい女の子が何人かいて鏡をみてメイクや服をチェックしたり、スタッフと打ち合わせ

したりしている。

 驚いたのはスタッフの半分が女性だったことだ。

 指示をうけててきぱき働く彼女たちの魅力的なことといったらどうだろう。

 モデルの女の子たちも美形の彰が横をあるいていたのに見向きもせず、撮影の準備をしている。

「目的をもって働いてるって感じだよなぁ。うんうん。大学の女の子たちにみせてやりたいね」

 一人感動していると、突然後ろから両方のほっぺたをつかまれた。

「うわっ。なんだよ、彰」

「ケイ、いやらしい顔しすぎ。セクハラだよ」

 そういって俺のほっぺたをむにむにひっぱる。

「いでででで……。俺がなにしたっつーんだよ。きれいなおねえさんたちをみて何が悪い〜!」

「悪い。すっごく悪い」

 むに。むに。

「こら。痛いってば」

 振りほどくと彰は、無表情で「じゃ、いってくる。」そういってライトの真ん中へ歩いていった。

 撮影が始まった。

「ったく、一体何なんだよ。あいつ」

 俺はほっぺたをさすりながら彰を見つめた。
 

←もどる つづき→

←コンテンツページへ

2005/1/22 update

2005/5/4 誤字、表記修正

2005/6/26 壁紙変更 

 ←ご感想はこちらまで