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 俺は今、非常に困っている。

 と、いうかもうどうしようもなく恥ずかしい。

 

 早朝、夢にうなされて起きた俺は、なんと彰しがみついたままも一回寝ちゃったのだ。

 どーも寝つきがよくて……って、違うっ!

 大体、あいつも悪いんだ。 本気で『抱っこ』してるバカどこにいるんだよ。 ほっといてくれっつーの。 

  まったくもう男相手に気持ち悪くないのかよ。

 それとも、それともあの時の俺ってやっぱりすごく変だったんだろうか。

 うーん。 その辺がよく思い出せない。

 

 とりあえず今日は平日なわけで。

 彰は午後の講義しかないらしいけど、俺には午前にも受けなくちゃいけない講義がある。

 いちいち恥ずかしがる時間もなくぎゃーぎゃー騒ぎながら、彰のマンションを飛び出した。

「なんとか、なんとかしなくちゃ。きっと俺、この調子で彼女のこともびっくりさせたんだ。 

これを治さないと俺、もう彼女できないかもしれない」

 

 

「圭一くーん。夕べはどこにとまったの」

 薄気味悪い笑みをうかべて吉岡がやってきた。

「な、なんで夕べ外泊したってわかったんだよ」

 なぜかおどおどしてしまった。

「ふっ、ふっ、ふ。ってお前ぬけてるよ。そりゃ分かるだろうよ。昨日と同じ服きてりゃ」

「あ、そうか。寝坊してあわてたから、気にしてなかった」

「そこでだ」

 吉岡がいきなり俺の首を抱え込んでヘッドロックにもちこんできた。

「さあ、吐け〜、昨日ボーイフレンドとどこへいったのかな〜」

「はああああ」

「俺の情報網を甘くみるなよ。昨日あの美形とどっかいったんだろ」

 そういえば……俺は昨日門のところにいた女の子たちを思い出した。

「なにが情報網だよ! どうせ女の子とかにきいたんだろう、いでで。バカ。放せってば」

「で」

「で、 も何も。一緒に飲みに行っただけだってば。で、終電無くなって奴んちに泊めてもらっただけだよ」

「お前あの美形の家泊ったのか。それあの女の子たちにいうなよ。場所教えろとかでうるせーぞ。きっと」

 はいはい。分かってますよーだ。ついでにひとつのベッドで一緒に寝ちゃいましたよ。

 どうぞ殺してくれって感じだよ。

 はぁ。

「どうした、二日酔いか。元気ないな」

 吉岡がめずらしく心配してくれる。

……そうだ。

「なぁ吉岡。お願いがあるんだけど」

「金と女はかさねーぞ」

「金はともかく女はいないだろうが」

「ははは。それはお前も同じだ。で、なんだ」

「週末お前んち泊りに行っていい」

 そう聞くと吉岡は眉をハの字にして

「へ、どうしたんだ。急に」 と聞いてきた。そりゃそうだよな。

「うーん。早い話がさぁ。朝方なんだけどさ、俺結構寝言を言うらしいんだ。

どんな感じになるかしりたいんだけどさ。ひょっとするとその寝言のせいで彼女に振られたかもしれないんだ」

「ほほう。美形にきかれたのか。彼女に振られた理由って、まさか昔の彼女の名前いっちゃったとか」

 それはないみたいだけど……。

「うーん」

「よし。泊りにこいよ。俺様がしっかり聞いてやる」

 

 そういう訳で週末、俺は吉岡のところに泊りに行った。 けど、それは全く無駄だった。

 ひょっとして今度は吉岡に抱きついたりしてーーーと吐き気寸前の想像もしたりしたがその前に

 彰のキングサイズとは違う吉岡のせまーいベッドになんかご一緒したくもない。

 でも寝言のチェックをしてもらわないといけないし、吉岡のベッドの横に布団をひかせてもらって

 何とか寝ようと思った。 がっ。

 コイツときたらいびきはすごいし、朝になって蹴飛ばしても全然起きない。

 そのせいか結構広い部屋だったのに俺は落ち着けなくて全く眠れなかった。

 うー。 意味ないじゃんか。

 

 自宅でも何度となく録音してみようと、タイマー録音なんかためしたけれど、寝言を言っている様子は

なかった。

 似たような夢はよく見るのに……誰かそばにいるときだけ寝言をいうのかな。

 と、いって前の彼女に電話したらストーカーとか言われそうでやっぱりそれはできなかった。

 うっかり電話して「着信拒否」とかされていたらそっちのほうがショックだし。

 ああ、度胸ないな俺。

 

 はぁ。

 考えが煮詰まるといつもするように昼間、俺は大学の屋上にあがってボーっと空を見ていた。

 そして雲をみながら、自分がみた夢のことを頭の中で反芻していた。

「母さん、か」

 ずいぶん前のことなのになんでまた夢でみるかな。

 

 口がさびしくてタバコをくわえると、ふと彰を思い出した。

 そういえば初めて話ししたのってここだっけ。

 なんとなく気まずくて、あれからもう10日以上彰とは会っていない……。

 おまけに専攻学科も違うし、学年も違うしで大学でもめったに会うことはない。

 迷惑かけたのに悪いことしちゃったな。 

 そう思ったら彰のあのきれいな顔がたまらなく見たくなってしまった。


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2005/1/20 update

2005/5/4 誤字、表記修正

2005/6/26 壁紙変更 

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