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『新説・シンデレラ』
(2)
「兄上、体の調子が悪いのですが今日の舞踏会は遠慮してもいいですか」
美しいすみれ色の盛装をした彰王子が兄の真吾王子に言いました。
「甘いな。それができるならとっくにやっているだろう」
黒い色の盛装をした真吾王子が答えます。
「そうですね」
はあ。
王子が二人、たくさんの美しい娘たちを目の前にしながらこのため息。
「だいたいこんなことで結婚相手をみつけるなどばかばかしい。父上も母上も考えが浅い」
「それは兄上も僕もあまりに結婚に興味を示さないから、この際誰でもいいと思ってるんじゃないですか」
「ふん。無駄なことを」
いやでしたがそれでも二人は王子としての勤めを果たすべく、立ち並ぶ女性を相手にダンスをするため立
ち上がったのでした。
さて、場所は変わってお城の入り口には恵とケイが無事に到着しました。
何の気なしに会場へと足を踏み入れたとたん、若い女性がいっせいに恵を見つめて息を呑みました。
白と金の美しい衣装をきたすらりとした美青年。
早々に王子様をあきらめた娘たちが率先してダンスを申し込んできたのです。
「騎士さま、どうぞ私の手をとってくださいませ」
迫りくる娘たち、それを相手によせばいいのに
「お嬢さん、そんなにきつく抱きついたらダンスになりませんよ」
なんてキザなセリフをほざくので娘たちは『総ロザリー化現象』を起こし、ますます恵を追いかけることになったの
です。(「ロザリー化現象」が分からない方は「池田理代子氏著・ベルサイユのばら」をご一読ください)
「ちぇっ、なんだよアイツ。結局ちやほやされて踊ってるじゃんか。俺はさっさとご馳走をいただくからな」
そうつぶやいたケイは後ろを振り返って驚きました。
なんとたくさんの男たちが我先にケイの手をとろうと待ち構えていたのです。
「なんてかわいいお嬢さんだ。是非僕と踊ってください」 そう言われて、
「うわあああああ、気持ちわりい〜」
ケイはあわてて逃げ出し、バルコニーへととびだしました。
「はあ、はあ、なんだよ。俺、この格好じゃお目当てのご馳走にもありつけないじゃんか」
しゃがみこんで息を整えていると、
「君、大丈夫、具合が悪いのかい」
突然誰かが声をかけてきました。
「うわあああ、びっくりしたっ、あ、やべえっ」
あわてて口を押さえましたが後の祭り。目の前にはすみれ色の衣装をきたそれはそれは美しい青年が驚いた顔をし
て立っていたのでした。
「君、もしかして男」 そう問いかけられると
「しーっ、だまっててくれよ。これには事情があってさ……」
変態扱いされたくなかったケイは必死になって森の妖精に『無理やり』魔法をかけられたことを話しました。
「そういう訳で自分じゃ脱げないんだよ。これ。12時になれば魔法が解けて戻れるらしいからそれまでの我慢だな、
っと俺口悪くてさ、ごめん」
舌打ちしながらケイが言うと
「気にしないで。じゃあ、ばれない様に12時まで一緒にいてあげようか?」
「えー、お前はダンスしないのかよ。せっかくいい男なんだから楽しんでこいよ」
「いいんだ。僕は。もともとこういうにぎやかな舞踏会は嫌いなんだ」
心から嫌そうな顔をしている彼を見て
確かにこいつが一緒にいれば他のアホ野郎は寄ってこないよな、思い直して
「そうか、じゃ一緒にいてもらおうか」
そう答えるとその美青年はそれはそれはうれしそうに微笑んだのです。
それをみてケイはちょっとドキドキしてしまいました。でもそれは自分だけの秘密でした。
「と、とりあえずさ、俺、なんか食おうかな」
「お腹すいたの。じゃあ、別の部屋に食事の用意をさせるよ。まってて」
(はあ? 別の部屋に用意ってお前……)
「あ、言い忘れてたけど僕はこの国の第2王子の彰。よろしくね。君は?」
「ケ、ケイ」
ウィンクをしながら歩いていく王子をケイは呆然として見送ったのでした。
2005/5/2 update
2005/9/10 誤字、表記修正