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『逃げ上手なシンデレラ・番外編』

「亜紀お姉ちゃんの憂鬱」

立花薫


*注意:事前に弊サイト「逃げ上手なシンデレラ」をお読みいただくことをお勧めします。

 

「おかしいなぁ」

 ま、首なんかひねっちゃって。

 ああ、困っているしぐさもいちいちポージングしているようにみえちゃう。そんな恵ちゃんは今、キッチンで

カクテルを作っている。

 カクテルといえばギャルソンでしょう? 他にもバーテンダーって選択もあるけど。

 という訳で、うまくおねだりして白いシャツに黒のギャルソンタイプのエプロンをつけてもらった。

 恵ちゃんってば、激ラブ! お願いすると困った顔をしながらも言うことを聞いてくれちゃうんだもん。

 それをキッチンがよく見えるように配置したソファーの上で見るの。うーん、メガハッピー。

 なんて素敵な金曜日の夜。

「めぐたーん、なにがおかしいの」

 グラスに口をつけては首をひねる恵ちゃんに、さすがに気になって聞いてみた。

「あのね、前に行ったバーで飲んだジンライムを再現しようと思ってるんだけど」

 言いながら恵ちゃんは、もう一度作ったばかりのカクテルに口をつけた。

「ひと味違うって言うか」

「もう一度そのバーに行って飲んでみたら。何が違うかわかるんじゃないの?」

「それは……、そうなんだけど」

 あら、恵ちゃんったら歯切れが悪いじゃない。

「ほら、あの時のバーだから」

 言いながら、ちょっと頬を赤らめた。なにこれ、なんてかわいいの、鼻血でたらどうすんのよ。

「あの時、ああ、あれね! ボケ真吾と会ったあそこの」

「お姉ちゃん、ボケなんていうのやめてってば」

 いいえ、あいつはボケなのよっ。そりゃ、顔はいいと思ったわよ、ちょっと眉毛が濃いことをのぞいては。

 だけど、ずっと恵ちゃんが女の子って気づかない大ボケだったわけで。

 なのにその後、本当に付き合いだすなんて、もうありえない大ボケなわけで。

 しつこいけど、どんなに高スペックでもあいつは私にとって単なるクソボケ野郎なワケよ。

「ねえ、スーツ着てもう一回いってみちゃうってどう? ね、田村君連れて行けば安心でしょ?」

 素敵、我ながらワンダホーなアイディアだと思うの。

 もう、スーツ新調しちゃうんだから。

「どうしたの」

 恵ちゃんはこまったようにうつむいている。

「うん、実はね……」 

 

「やだーん、信じられないー! わあーん!」

「ちょ、ちょっと、お姉ちゃんってば」

 

 ゆるせない、あの男っ!

 恵ちゃんに「男装禁止令」をだすなんて。

「お姉ちゃん、ほら、この格好くらいなら大丈夫だから」

 うううっ、そうなの、ギャルソンスタイルがOKだったのは、そのためなの恵ちゃん。

 

 ところが翌日、未だ怒り狂う私を前に、田村君はけろっとして言ったのだ。

「そりゃ、当然ですよ。恵さん男装すると、なんていうか、ものすごく色っぽいんですよ。彼氏だったら心配でしょう」

「きゃーん、田村君まで。そうだけど、そうだけど、許せない!」

 私は立ち上がった。

「書いてやるわ、ボケ真吾がメタメタに振られる話を」

 作家には作家の復讐方法があるのだ。

 

この戦いは延々と続く。

 


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2009/10/31 update

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