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毎朝、6時には店にきている、ペットボトルを使ってバターを手作りするためだ。
しっかり消毒したペットボトルに生クリームをいれて冷蔵庫で冷やしておく。そしてそのボトルをぶんぶん振り回す。
仕上げはバーテンダーがカクテルを作るようにシャカシャカと。
これが結構疲れるけれど、脂肪と水分が分離すればあっという間にバターができる。
最初の頃は普通の天然塩を使っていたけれど今はいろいろと試して一番合う岩塩を使っている。
こんな風にこりまくったおかげでこれで作るトーストは大好評で予約したいというお客様もいるくらいだ。
唯一の欠点は10名分作るのが限界ってことかな。
「おーい、小林少年」
真鍮が激しく鳴る。
この声はあの探偵だ。なんでいつもお前が一番乗りなんだ。
「腹が減ったぞ、小林君。この明智探偵を飢えさせるつもりかー」
名探偵の明智のほうじゃなくて、見た目は大人で中身が子供の明智だよな。
全く。他のお客様が見えたら迷惑だろうが、と言いたいところだが今日は少し元気がない。
オレは奴のために本日のバターをとりだした。
「はい、お待たせしました。モーニングですよ」
とりあえず固定客ではあるので笑顔でサーブする。
「なんだ」
思わず彼の顔をじっと見つめていたらしい。
「すこしお疲れですか、その、お声のハリがないような」
するとこいつはいつも読んでいる新聞から顔をあげ、大げさに首を振った。
「おお、わかるか、さすが俺の弟子だな、小林少年」
だから、その昭和30年代の設定やめろ。
「探偵業初めて以来の大失態だよ。調査料全額返却だ」
だがそう言いながら肩の力を抜いて、それは嬉しそうに笑っていた。
広げられたそいつの新聞には有名画家の描いた「木蓮」の写真が載っていた。
「ああ、パンもいいけれどたまには味噌汁と飯といきたいな」
俺がつくったモーニングを大口あけて食べておきながら失礼なことを言う。
そう思いながら心の隅で、しばらくこのボケ探偵は来ないかもしれないと、ほんの少し、本当に
ほんの少し胸が軋んだ。
「と、いうわけで明日は特別にコメと味噌汁な」
「は?」
「少し早めにくるから、用意しとけよ」
ちょ、ここは定食屋と違う……!
オレの返事を待たずに、奴はドアの真鍮を派手に鳴らして出て行ったのだった。
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2011/2/7 update