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(41)
サガ宰相は少しの間バーサの顔を見つめていたがやがて口を開いた。
「先のお前の働き、見事であった」
「ラズル様のことでしょうか……それでしたら医師として当然かと」
すぐさまバーサが答えると彼はおごそかにうなずく。
「此度は実に面白い策を使ったと報告をうけたがな。アルド王子は特に感じ入ったようであった」
それを聞いたバーサは片目を細め、宰相はかすかに微笑む。
「まあいい、細かなことはシターの言に沿うように」
バーサは不服そうであるがサガ宰相は気に留めなかった。
彼にとっての一番の仕事はアルド王子の希望にそいつつ、きちんと仕事 をしてもらうことにあるのだ。
馬車の手綱につけられた鈴が軽やかな音をならす。王族の乗る馬車はどんな仕掛けがあるのか
揺れが少なく、快適である。
小さな窓に目をやれば、景色がゆっくりと流れていく。
そのまま視線をやや後方に向けるとアルド王子が伴う兵士達の顔が見えた。皆、乗馬し粛々と進む。
「何を見ている」
「外を」
「何か変わったものでも見えるか」
「特に」
「……気のせいだとは思うが」
「何でしょう」
「いつもより言葉が少ないな、ここにはサガもいないぞ」
アルド王子は横に座るバーサの顔を覗き込む。
「この服、この頭でおしゃべりになれるなら鍛え抜かれた道化師になれるでしょう」
青をベースにした細身のドレスは色白なバーサの肌によく映えていた。バーサの髪は長くはないが
香油でなでつけられた上に大きな石のついた飾りが揺れる。
シターの指導のもと着替えた後は時間をかけて飾り付けられたのだ。
「うむ、見事な飾りだろう、急いで作らせただけはあるな。よく似合う」
そういうとアルド王子はだらしなく目を細めたが反対にバーサは目線だけを下へ向けた。
なぜこんなに飾り立てられて、しかも馬車に同乗してサフィル侯のところに行かねばならないのだろう、納得していない
バーサの不満はもっともであった。
「そうむくれるな。旅の間その姿のまま、そばを離れるな。それだけでいい」
「あまりにも説明とご指示が足りないと思いますが」
やや不満げにバーサが答えるとアルド王子はにやりと笑った。
「到着すればすぐにわかるだろう」
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