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『青空をみあげれば』
立花 薫
「相原圭一、 やぶれたり〜!」勝負がついた瞬間、吉岡が絶叫してガッツポーズをとっている。
「この俺が負けた……」得意のブラックジャックだ。いままで無敵だった。それなのに。
俺は今大学2年。入学金と授業料がべらぼうに高いことで有名な葉泉大学、つまり俗に言う
坊ちゃん大学に通
っている。
大学の悪友達と軽い気持ちで始めた敗者罰ゲーム付きトランプゲーム「ブラックジャック」
回を重ねるごとにその罰ゲームの内容は悪化していき、前回吉岡が負けたときは「女装して銀座へ飲みに行く」
という極めて無気味かつ恐ろしいものになっていたのだった。
そして今回初めて俺が敗者となってしまったのである。
負けることなんてあるわけがないとタカをくくっていた俺は事前に決めてあった今回の罰ゲームの内容にすく
みあがった。
『女装シリーズ第二段。次回真行寺家長女婚約報告パーティに参加、男を引っ掛けること』
「おいおい、”男を引っ掛ける”ってなんだよ。いままでのバツゲームで一番過酷じゃないか」
騒いだが奴等はきいちゃいない。負けた後でなにをいっても無駄なわけだが。
ああ、女装……。プラス男って。 この男声でどうやって男ひっかけるんだよ。
翌日俺は朝一番で大学の図書室にいった。
本なんかレポート提出前くらいしか読まないが歓喜に浸る悪友どもに会いたくなかった。
本棚と本棚の間をふらふらしながら俺はいまだに昨日の失態を思い返しうなだれる。
「はぁ。どうすりゃいんだよ」
国外逃亡でもしたかったがいままでやつらに散々罰ゲームをあたえてきた俺に逃げ道はない。
こんなことなら前回、吉岡が泣きついてきたとき少し甘くしてやるんだった。
そのときふと、そばの窓際にいる人物に目が止まった、と、いうかそいつがずっと俺をみているのに気が付
いたのだ。バツが悪い。
俺ってば図書館にいながら下向いて溜息ばかりついていたから。
そいつは男の俺が言うのも変だが「超イイ男」だった。
窓際に普通に立っているだけなのにそのまま『メンズノンノ』のグラビアに載っていてもおかしくない感じがする。
サラリとした長めの黒髪、通った鼻筋、透き通るような白い肌、180はありそうな身長。
普通のコットンシャツにパンツといういでたちなのに「いい男」オーラがスパークしているのだ。
「うわー。女にもてそうだな、ちくっしょう」
だけど俺と目があうとふいっと図書室を出て行ってしまった。
「なんか感じわりぃな。変な奴」
そう思ったがそれもすぐに忘れて俺はまたぐるぐると罰ゲームのことを考
えてへこんでいた。
結局、図書室でもおちつかなくて屋上にでた。
そして、タバコをくわえて火をつけるでもなく、ボーっと空を見ていた。
「ライターあるよ」
「えっ」
急に話し掛けられ、声の主を見てびっくりした。
さっきの『メンズノンノ』じゃないか。
「い、いや、いいんだ。吸いたいわけじゃなかったんだよ。なんか、その、口寂しくて」
「そうか」
そいつはそう言って自身もタバコをとりだして火をつけた。
そんなしぐさもいちいちキマっている。
ああ、空はこんなに青いのに、風はこんなにあたたかいのに、お隣にはとっても『いい男』がいるのに
どうしてこんなにヘコむの。なんかどっかのアニメ主題歌みたいだ。
「あのさ、君……」
また急にメンズノンノが話し掛けてきた。
「ん?」
「なんか悩んでるの」
「な、なんで」
俺は言い当てられてどぎまぎした。
「さっき図書室にいたろ。その時溜息ばかりついていたし、タバコを吸いに屋上へ来たら、また君がいて、
じっと空をみているし」
「まさかこの俺が飛び降りると思った、とか」
またまた驚いて聞くと、
「ちょっとね」 奴はこっくりうなずいた。
黒いさらさらした髪がゆれた。
そんなしぐさに俺はヤツが男なのにどきりとしてしまう。
「うっわー。俺そんなに落ち込んで見えるのか。 ははは。違うんだよ。笑ってくれよ」
俺はおかしくなって笑いながらそいつに罰ゲームの話をした。
「そんなことだったんだよ」
俺は一気に話しおえてヤツの顔を見た。
しかし何も言わずにタバコをふかしている。
「ばかばかしくって、聞いて損したろ? なんかさ、心配してくれたのに。ごめんな。こんなアホな悩み事で」
そうだ本当アホだよな。よく考えれば、単なるトランプゲーム勝敗の罰ゲームなのだ。
2005/1/2 update
2005/5/3 誤字、他表記修正
2005/6/26 壁紙変更
2005/11/13 語尾修正