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「……でさあ、長瀬。聞いてくれよ」
「おい、真。もう夜中だぞ、寝かせてくれよ」
全く大失敗だ。
確かに『男の友情』を約束したけどな。こうもちょくちょく電話でお前に恋愛相談されるというのは予想外だ。
おまけにこの長電話。お前やっぱり女じゃないのか。
片思いの彼女を口説き中の真はちょっとしたことでも俺に相談してくる。真にとって俺は相当な『経験者』
と思われているらしく、ことあるごとに電話してくるのだ。
まあ、電話にでてやる俺も俺なんだが。
「僕さぁ。少しづつ男らしくしていこうと思うんだ。とりあえず明日は髪を切ってくる」
「うーん」
すでに深夜一時を回っている。悪いが俺は半分夢の中だった。
「それとさあ。やっぱり女顔だから、言葉だけでももっと男らしくしたほうがいいかな、僕も自分のこと『オレ』
とか言ったほうがいいと思わない?」
「うーん」
適当に返事をしつつ、『女顔』って取りあえず女なんだからあたりまえだろこのボケ、という脳内ツッコミは
忘れなかった。
数日後、大学構内を一人で歩いているとパタパタと足音がした。
「おおい、長瀬」
という掛け声とともに俺に走りよってきた真をみて、俺は手にしていた缶コーヒーを落とした。
ばっさり切られた髪の毛。前髪を少し長めにしてはあるが俺の髪型とたいして変らない。
そして体のラインの見えないダボダボのシャツにジーンズというラフないでたち。
真……あちゃ、すっかりかわゆくなっちゃって。つーか、お前それじゃあ大学に迷い込んだ中学生だぞ。
「な、長瀬。どうかな、これ、どう。オレ少しは男らしくなってない」
そういってくるんとターンして見せた。
「アホ、最悪だ」
「え」
「お前なあ、それじゃあガキだろうが」
すると真は自分の胸元をみて首をかしげながら反論してきた。
「そうかな。彼女はジ〇ニーズ系が好きらしいからちょっと意識してみたんだけど」
ジ〇ニーズ……。というよりは『劇団ひま〇り』だ。
なんだかな。黒髪を伸ばしていたほうがちょっと陰のある大人っぽい雰囲気があったのに。
俺は思わず大きなため息をついた。
「だってさ、だってさ、長瀬がいいんじゃないって言ったんだぞ。これ」
なんだって。
「この間電話したときこういう格好オレに似合うと思う、って聞いたら『うん』って言ったじゃないか」
うわ、記憶なし。
俺の表情を見てそれを悟ったのか真は頬をふくらませた。
「いいよ、いいよ。見せたいのは長瀬じゃないからね、オレ、これから彼女に会いに行くんだ」
そう言ってから顔を引き締めて、切なげな表情になる。
「髪を切ってからはじめて会うんだ。……気に入ってくれるかな」
やれやれ。どこまでが本当のお前なんだか。気がつくと俺は真の頭をなでていた。
2006/10/16 update