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「天使のまちがい」

立花薫

 

「頼むよ、な」

 友人のあまりにしつこい誘いにやむを得ずうなずいた。

「やった、じゃ、長瀬参加な! 女の子たちにもそう言うからさ。場所はいつもの居酒屋だ。後で迎えに行く

からな」

「分かった」 そう言って俺はため息をついた。

 正直言って合コンなんて行きたくない。俺は女には興味がないんだ。どっちかっていうと女の子目当て

でやってきた男の子に目が行っちゃったりするんだよ。

 そう。俺はゲイだ。

 なのに俺は女性好みの容貌らしくやたらと女にモテる。ついでに実家もそれなりの資産家でうっかりそ

れがばれたりすると女達なんざ目をぎらぎらさせて接近してきてはっきり言って恐怖以外感じない。

 

「まるで俺は客寄せパンダだな。女には興味ないのに」

 

 

「皆さん、揃いましたね〜! じゃ、はじめまーす。カンパーイ」

 俺をしつこく誘った佐々木が浮かれている。女の子の出席率がめちゃくちゃいいせいだ。

 合コンが始まってしまった。 ま、いいか。始まった以上さっさと飲んで飯食って帰るのが一番。

 意味ありげに女の子が話しかけてくるけれど適当に返事をしてあわせておく。

「長瀬君ってめがね似合うよね。でもコンタクトにしないの」

 ちょっと化粧の濃い女が俺の横でほざく。大学生のくせしてその化粧慣れはなんだ。

「コンタクトめんどくさいからな」

 こんな会話もうんざりだ。できればお前の斜め前に座っている男の子呼んで来い。

「クールねえ、でもなんか長瀬君って面倒みたくなっちゃうタイプよね」

 悪いけど相手は選ばせてもらうからな。

 そんな風にふてくされているときだった。ふと席の一番端っこでおとなしく酒を飲んでいる女の子に目

が行った。

 化粧お化けがそろうなか、珍しくノーメイクだ。それでも綺麗な顔だ。真っ黒な髪を染めずにそのまま

にして肩までのばしているが、それがまた彼女に似合っている。

 佐々木が狙いをつけているのか彼女の横にはりついていた。

 それを特に邪険にする風でもなく、俺と同様さっさと酒のんで帰ろう、ってさめた感じがする。

 

 ……なんとなく、なんとなく、だ。違和感がある。あの彼女。

 なんだこの感覚は。ゲイとしての俺のセンサーがなんらかの警戒音を発している。

 

 しばらくすると彼女がトイレに立った。

 すこしたってから俺は無意識に彼女のあとを追うように席を立った。トイレのそばまで行くと丁度彼女

が出てくるところで、目があうと「こんばんは」といってにっこり笑う。

 ……やっぱり変だ。なぜだ。どうにもこうにも違和感ある。

 

「あのさ、君……」

「ん、なに?」

「本当に女?」

「!」 彼女のびっくりした顔をみて俺は我に返った。日ごろ冷静といわれる俺が何たる失態だ。

 

 びっくりしたまま、まるでビデオの一時停止ボタンをおされたみたいになっている彼女。

「ご、ごめん、俺酒に酔ったみたいだ」

 そういうと彼女も我に返ったようだ。

「ね、今のどういう意味」

「いや、すまない。忘れてくれ」

 俺は彼女の横をすり抜けようとした。

「まって、今の私が女にみえないってこと」

 まじめな顔をして俺の目を覗き込んでくる。

「そ、そんなことはない。なんていうか、その、本当にわるかった。酔ってるんだよ俺」

 彼女のあまりの反応にびびった俺はちょっとあわてた。 すると俺の腕をつかんで、

「あなたと色々話がしたいわ。一緒にぬけださない、まってて、荷物取ってくるから」

 おいおい、ちょっと待ってくれよ。

「おまたせ! はい、これあなたの。いきましょ」

 あざやかだ。この俺が完全にリードされてる。

 

 

 彼女にひっぱられて店の外に出る。こんな経験も俺には初めてのことだ。

 

 すこし歩くと人気のない通りにでた。彼女は俺のほうを向いて、

「おい、お前、なんで分かった?」

 は?

「僕が男だって、なんで分かったんだよ」

「え?」


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2005/3/12 update

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