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 鍵か、あんな目にあっていながらなぜ今まで変えなかったのだろう。

 

 数日後、毎度恒例の亜紀姫様からのお呼び出し。

「デジカメのカタログを集めてきて」か。

  本当に資料に使うのかなぁ、恵さんがらみなんじゃないのかなぁ、なんて思いつつ僕は大手電気ショップに

走った。

 依頼されたデジカメのカタログのほかに気を利かせてハンディビデオカメラのパンフもごっそりと集めるとその足で

亜紀さんのマンションへと向かう。

 電気ショップで時間を取りすぎたせいか、時刻はすでに帰りのラッシュアワー。

 パンフレットが入った紙袋を両手にした僕はぎゅうぎゅう詰めの電車の中で死にそうになった。

「田村さん?」

「あ、恵さん」

  目的の駅についてホームに下りたところで偶然、帰宅途中の恵さんに会ったのだ。

「大変、ひとつ持ちますから」

 恵さんは僕から袋をひとつ受け取るとにっこりと笑う。

 グレーのパンツスーツを身につけ、その紳士的な態度は、やっぱり、残念なことに、かわいそうだけれども

カッコイイですよ恵さん。

「こんなにたくさん、これ、姉が頼んだんですね。すみません」

 恵さんは申し訳なさそうに肩をすくめる。

「とんでもない、資料を集めて亜紀さんのお手伝いをするのは編集の仕事ですから」

 答えながら僕は、こんなに優しい人になんてことを頼んだのだろうかと自戒した。そして「もう絶対にあんな無茶な

お願いはしない」と硬く誓ったのだった。

 恵さんと二人、マンションまで一緒に歩く。マンションまであと少し、というところで恵さんは急に立ち止まった。

「あれ、どうしました。恵さん」

 振り返って問いかけてみても、恵さんは何か考え事をしているかのようにうつむき、じっとしていて動かない。

「恵さん?」

「田村さん、ごめんなさい。ちょっと先に行っていてもらえますか」

 そういうが早いか預けた紙袋をもったまま横の道を曲がっていく。

 急なことだったので不思議に思ったけれど「わかりましたー」と彼女に聞こえるように答えて再び歩く。

 マンション横にある駐輪場まで来たとき、突然、後ろで何かを倒すような音が聞こえた。

 この駐輪場は屋根があるせいか昼間でも薄暗い。恐る恐る振り返ると、めがねをかけた男性が自転車にぶつ

かったのかしりもちをついている。

「大丈夫ですか」

 あわてて駆け寄り彼を起こそうとした瞬間、今度は僕がものすごい衝撃をうけて後ろへと転がった。

なんだ、なんだ、何事だ。

 体を起こし、ずり落ちた自分のめがねを必死でもとの位置に戻す。

 すると目の前にしりもちをついていたはずの男性が立っているのに気がついた。

 彼はうらめしそうなめで僕を見下ろし、何かをつぶやいている。

「なんで、なんでお前が。お前なんか・・・・・じゃないか」

「はあ?」

 意味がわからず見上げているとそいつはこぶしを握り、手を振り上げた。

 殴られる。とっさにそう思って目をつぶった。

 けれど。

 少し経っても覚悟したはずの衝撃は来なかった。代わりにうなり声が小さく聞こえる。

 目を開けてみて驚いた。

「め、恵さん」

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2009/5/9 update

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